2004年08月28日(土)  諸手を広げて。
 
僕の彼女はかなりの速読家で、部屋の本棚から1冊借りていった本の感想をその日の夜のうちにメールで送ってくる。だから3日会えないときは3冊借りていき、僕は3つの読書感想文を読むことになる。
 
僕はかなりの遅読家で、文庫本1冊完読するのに1週間ほどかかってしまう。それは読書に費やす時間の差もあろうが、それでも最低1日1時間は読書の時間を取っている。なのになぜ僕と彼女に同じ本1冊でもこれほどまでに差が存在するのか。
 
僕の遅読の理由は、同じ行を繰り返し読んでしまったり、前のページに戻ったり、前の前のページに戻ったり、第4章を読み終わって第2章を読み返してしまうなど、誰か傍らで僕の読書風景を覗いていたら、電車を3分待つだけでイライラするような短気な人であれば、僕の文庫本を横からひったくり、真っ二つに引き裂いて僕の手を引いて夜の歓楽街へ連れていき、ビールでも飲んでとりあえず浮世の杞憂は忘れろと言われるのは明白である。
 
しかし幸い僕の傍らには短気な人は存在せず、彼女のような部屋を掃除していなくても洗濯物をたたんでいなくても「もう」の一言でそれらの煩わしい行為を代行してくれる人がいるだけなので、僕は今日もこうやって自分のペースで読書を嗜むことができる。
 
それにしても彼女の読書のスピードは尋常ではない。僕達は遠距離恋愛だからまだいいものの、これが近くに住んでいようものならば、僕の本棚の本は全て彼女の知識の胃袋に吸い込まれ、消化されていくことだろう。だから彼女が今度この部屋に来るまでに、僕は更に読書の数を重ねなければならない。
 
しかし僕の本棚は既に小説で埋め尽くされており、新しい本棚が欲しいのだが、まるで僕の知識の限界を示すようにその本棚を置くスペースが僕の部屋にはない。それに対して彼女は貪欲である。その知識の泉は枯れることを知らない。そうやって彼女はどんどん僕に近付いてくる。そして僕は諸手を広げて近付いてくる彼女を迎えようとしている。しかしその広げた諸手は、彼女に対して降参の意を示しているようにも見える。
 

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