2004年07月02日(金)  はぁ、越そう。

あー。面倒臭い。
 
僕は「面倒臭い病」という病名がついてもおかしくないくらいに、何事に対してもまず面倒臭いと考えてしまう節があって、不動産屋から手渡された池袋近辺の賃貸情報が書かれた分厚いファイル。将来自分が住む部屋であるというのに、面倒臭い。探すの面倒臭い。帰って風呂でも入りたい。帰ったら帰ったで風呂入るの面倒くさいとか言い出すのだが、まず目の前にあるものが面倒臭い。もう池袋近辺だったらどこだっていいや。職場が近けりゃ万事オッケーです。
 
よし、上から5枚目の中から選ぼう。
 
今住んでいる部屋は、いけじょさんと一緒に不動産屋をまわって探した部屋であって、あの時も面倒臭い。どこでもいいと自分に対してものすごく無責任になっている僕に代わり、「ここはダメよ」「あそこがいいかも」「あー。あそこはダメ」などと、主にいけじょさんが不動産屋のお姉さんと対応してくれたのだが、今回はいけじょさんがいない。彼女もいない。誰もいない。僕しかいない。だから面倒臭い放題。
 
この賃貸ファイルの上から5枚目の中でどうしても選ばなければいけない。えっと、この5枚の中で選ばないと、えっと、どうしよう。あ、そうだ。今度鹿児島に帰郷の際、飛行機が落ちる。あぁ怖いなぁ。落ちるのイヤだなぁ。だからどうしてもこの5枚の中から選ばないといけないなぁ。
 
「あ、ここにします」
「え? もう決まったの?」
と、不動産屋のオジサン。
「はい。ここにします」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。もうちょっと探そうよ」
「ここにします」
「え? ホント? じゃあ実際に行ってみる?」
「うーん。暑いし、結構です。ここにします」
「ちょ、だから、ちょ、ほ、ちょっと待ってよ。見てよ。普通見るよ。オジサン一緒に行くからさ」
「じゃあ見ます」
「だったらさ、どうせ行くんだったらさ、あと2件くらい候補出そうよ。で、比較とかしてみようよ」
「んー。結構です。ここにしますから」
「ほら、ここ。ここなんてこれより安いよ。こっちの方なんて駅から3分で5万円だよ。おぉ。これなんだ。発見。発掘。大発掘。安い。安いね。ここ。東武練馬5万3千円。しかも敷金礼金なしときたもんだ」
「うーん。結構です」
「ほら、自分で住む場所なんだからさ、もうちょっと真剣に探そうよ」
 
と、僕はここでふと思った。これ恋愛じゃん。て。自分に無責任な僕に対して、少しは責任を持って欲しいと必死に説得する彼女。何に対してもどうでもいいと思っている僕に対して、どうでもよくないことを説こうとする彼女。僕はどうでもよくないことなんて十分理解しているのだけど、どうでもいいことと、どうでもよくないことの明確な違いなんて実はないんじゃないか。世の中のことって、たいしたことないんじゃなか。結局全てがどうでもいいことなんじゃないかという哲学的思想の元、運を天に任せているというか天を運に委ねているというか、まぁ、そんな感じで、ピースな愛のバイブスで、清水の舞台から、マンションの9階から飛び降りるつもりで、自分の哲学に基づいたいい加減な気持ちで、
 
「ここにします。ここに住みます」
 
えー。という文字が額に浮かんでいるような表情をする不動産屋のオジサンを、説得も何も僕は客なのだから、客の言う通りにしなさいという、なんだかフニャフニャした強引さで、僕の新居が決まろうとしていた。
 

-->
翌日 / 目次 / 先日