2004年07月01日(木)  うん、越そう。
 
さて、ようやく引越しの意思が固まったはいいが、意思だけ固まっても行動しなければ何にもならない。よってとりあえず池袋へ行く。池袋に行ったら何かあるだろう。と、ぶらぶら。ぶらぶらぶら。あ、本屋。小説でも買おうかしら。あ、バーゲンやってる。夏物でも買おうかしら。あ、足痛い。喫茶店入って休憩。と、彼女からメール。
 
「部屋見つかった?」
 
見つかんないよ。そもそも部屋を探すという目的すら忘却してたよ。ありがとう彼女。このコは引越し手伝ってくれるのかしら。昔引越しのバイトしてたって言ってたからね。僕は何もしないつもりだよ。引越しの手続きだけ済ませて梱包は彼女に任せる。で、不動産屋。どっかにあるでしょう。だいたい東京にないものなんてないんだ。歩けば見つかるよ。ほらあった。
 
とあるビルの4階。消費者金融ですと言われたら、ああそうですかと納得してしまうような、柄が良いとはいえないオジサン4人が4つ並んだ事務机に座っている。奥の方で社長というか、この中のボス的存在であろうオジサンが、パソコンに向かって唸っている。
 
「また家賃、振り込んでないよ」「どういうつもりなんだ」「あの件はダメだね。値切ってくれしか言わない。こっちが嫌になるよ」「なんで大塚のあの部屋が開いてるんだよ」「あー。またアイツだよ」「保証人はどうなってるんだよ」
 
帰りたい。完璧に客を無視している。呆然と立ち尽していると、オジサンの中でも最も柄の悪いオジサンが、まぁどうぞ。と言って席を勧めてくれたので、お茶でも出してくれるのかしらと思ったら、そうでもなく、「はい、これ書いて」と、半切れの紙に個人情報を書けと言っている。イヤだなぁ。怖いなぁ。利率いくらなのかしら。と、気分はもう消費者金融。
 
「で、どういったところに引っ越すの? 今どこに住んでるの? 仕事は、年齢は、あ、結婚してるの? 暑いねしかし。あ、今どこに住んでるの? これ言ったっけ? あ、ちょっと待って。もしもーし。今接客中なんだよ。あとで掛け直してくれ。お前さんばっかりに構ってるわけにはいかないんだよ。だからあとで掛け直せって。あ、ゴメンね。で、なんだっけ。どこに引っ越したいの?」
 
矢継早に要領を得ないことばかり話し掛けてくるので、何をどっから答えていいかわからず、うろたえていると、「あ、もういいよ。とにかくこれ書いてよ」と、とろい人間に話し掛けるようなやや諦めの入った口調で先程の紙を差し出され、もう暑くて暑くて、冷たいお茶でも出してくれないかしらと思っていても、出してくれず、仕方なく、現住所、年齢、職業、年収などを簡単に記載し、オジサンに提出しようとしたらオジサン冷たいお茶を飲んでいる。
 
「あ、書いた? ちょっと見せてね。……。ふーん。ふーん。へーぇ看護師。ふーん。へぇ埼玉。ふーん。はい。はいはい。ちょっと待っててね」
 
と、一人で何かを納得して、分厚いファイルから次々に賃貸情報を僕に手渡す。この手渡し方が半端ではなく、本当に次々に僕に渡すので、これ何かの仕事? 何かの手伝い? と思う間もなく次々に渡すので、あっという間に僕の手元には、池袋近辺の住宅情報でいっぱいになり、これからどうするのかと思ってオジサンの顔を見ると、
 
「これから探してね」
 
と、それだけ言って電話応対を始めた。思いがけず突き放された僕は、しょうがない。この中から探そうと、ノドの乾きを訴えつつ、分厚い賃貸ファイルから、引越し先を探すのであった。
 

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