2004年02月18日(水)  後。
 
看護には「記録」という大切な仕事があり、というのも近年、「記録の開示は患者の権利の保障として位置づけられるものである。現在、医療現場において患者のおかれている立場を考えれば、法律に記録の開示を明記し、患者の自己決定の権利を保障する必要がある」などと日本看護協会が訳の分からない見解を表明したお陰で、来月の休日予定を婦長に却下された。しかも今日のお昼に売店で買った牛乳を飲んだので帰りの電車の中でずっとウンコしたかった。
 
で、記録の話なんだけど、今日カルテに看護記録を書いていたのです。で、「食後」という漢字を書こうとしたとき「後」という字が思い浮かばなくて途方に暮れてしまった。「ぎょうにんべん」までは思い出せるのだが、その右になんて書いていいのかわからない。
 
確か婦長さんのデスクに漢字辞典があったはずなんだけど婦長さんとこまで行って「ちょっと辞書借ります」って言うのが面倒臭いというか気を遣うというか何というか、ただ単に今記録を書いてる机からちょっと遠いだけの話なんだけど、「後」という漢字くらいこれまで数え切れないくらい書いてるわけだし、そのうち思い出すだろうとペンを止め、ペンを鼻と唇の間に挟む、耳腔に挿入する、陰部を突くなどして脳内を刺激していたのだが一向に思い出せない。
 
手元のメモ帳に「ぎょうにんべん」の右にいろんな漢字を書いてみるが、「菱」だの「系」だの一向に的を射ない。あぁもう「菱」でいいやと思って看護記録に書こうとしたが、この記録は僕だけの記録ではなく他の看護師も見るので、「ヨシミは漢字検定持ってるくせに『後』の字も書けない」だの「今日昼休みに売店で牛乳買ってたから帰りの電車できっとウンコしたくなるよ」だの言われそうなので、あぁもうホント面倒臭いけど婦長さんの机に行って、婦長さんは不在だったので机に向かって一礼して辞典を借りた。
 
辞典を開くと、「うしろ」というところに「後ろ」って書いてある。「ご」というところには「後」と書いてあり「あと」というところには「後」と書いてある。なんかおかしい。「うしろ」ってこんな漢字じゃなかったような気がする。なんというか、僕の脳がまだ正常だった1時間くらい前の世界では「後」という漢字はこんな字じゃなかったような気がする。
 
よって僕の脳ではなく、その世界全体がなんだか変なことになってしまって、「うしろ」という漢字に「後」などという変な字が当てはめられてしまったのだ。神様が世の中の全ての書物、辞書の「うしろ」という字を「後」というヘンテコな文字に変えてしまったのだ。昔はこんなんじゃなかった。納得いかない。
 
えっとこれどうやって書くの? ぎょうにんべんにー、糸っていう字を途中まで書いて、って、ほら、途中まで書いて投げ出して、その下に夕方の夕のなんていうか飛び出しちゃった字を書いて「後」おかしな字だなぁ。こんなんじゃなかったはずなんだけどなぁ。もっと凛とした字だったような気がするんだけどなぁ。
 
と、通りかかった看護婦さんに「ちょっと、『うしろ』って漢字書いてください」と頼んだら、その看護婦さんも時すでに遅し。神様に洗脳されていて「後ろ」っていう字を書いた。とても可哀想だと思った。だけどここで同情すると僕がおかしな目で見られかねないので、僕はすごく慈悲深い人なので、ヘンな字を書く人に対して白い目で見るような真似はしないので、愛と優しさを込めて「わぁ。看護婦さん、すごいキレイな字を書くのですね」などと、キレイな字を書かせるために「後ろ」という字をなぜ書かせたのかと突っ込まれたら御仕舞いなことを言ってしまい、実際それを突っ込まれてしまったので、僕は人を憎まず神を憎んだ。
 

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