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| 2003年09月06日(土) アッバス首相が辞表提出 治安権限で議長と対立。 |
| 今日は忙しかった。といってもこの仕事はいつも暇な時間がないくらい忙しいのだが今日は特に忙しかった。朝出勤して今何時だろうとふと時計を見ると午後5時をまわっていた。それくらい忙しかった。給料が上がるわけじゃないのにね。 というのもアッバスさんがいきなりとんでもないことをしでかすから、いや、後輩の葛西という23歳の若造は「あの人なんかしでかすんじゃないかなぁって思ってました」と言っていたがあれは嘘だ。じゃあ前もって言えよ。アッバスさんがその準備をしていたときに葛西は吉野家で牛丼を食っていたそうではないか。つゆだくで。 今日は出社するなりオフィスは災害でも起きたかのようなパニックに襲われていた。僕はその喧騒の中、一人デスクに座り煙草をふかしていたアッバスさんに「いったい何が起きたんですか」と問いかけた。アッバスさんはまるで他人事のように「今朝辞表を提出しました」と言って新しい煙草に火をつけた。 「辞表!?」 「そう。辞表。もう辞める。山手線毎朝満員。納豆食えない。寿司はダイジョブ」 「寿司とか納豆は関係ないですよ!」 話によるとパレスチナ自治政府のアッバス首相は早朝4時に目覚めて顔の3分の2を覆っていたあの自慢の髭を綺麗に剃ってヨルダン川西岸ラマラの議長府でアラファト議長に辞表を提出したそうだ。アラファト議長の驚く顔が目に浮かぶ。だってアッバスさんは10月から始まる新しいプロジェクトの責任者に就任したばかりだったから。アッバスさん張り切ってたから。 「臭くない納豆作るって張り切ってたじゃないですか!」 「いや、理由は今度のプロジェクトに不満があったのではないです」 「だったらどんな理由があるんですか!」 「自治政府の治安権限をめぐる議長との対立です」 「そんなことで……」 アラファト議長はこれからどうするのだろう。葛西がスプーンでフライパンをけたたましく叩きながら通ったのでアラファト議長は今どうしているか訊ねたら、 「いや、アラファト議長自身は何って言ってるかわかんないすけど、アラファト議長に近い自治政府高官は、議長は辞任を認めるかどうかをまだ検討中だと述べたそうっすよ」 「そうか……それにしても大変なことになったな。このままじゃパレスチナ紛争解決と2005年までのパレスチナ国家樹立を目指す新和平案に基づいてイスラエル側と交渉を続けてきたアッバスさんの辞任が認められれば、新和平案は崩壊の危機に立たされることになる……」 「それで済んだらまだいい方っすよ。今後納豆がより臭くなるかもしれないんですから」 「そうか、地球全体が危機を迎えることになるな」 「納豆、あれ以上臭くなっちゃったらオゾン層とか一発っすよ」 アッバス首相は臭わないドリアンの開発に成功し、その業績を買われてイスラエル支社から池袋支社へ移動となったのが4月30日だった。あれから4カ月余りで辞表提出に追い込まれたということになる。アラファト議長を排除し、アッバス首相を交渉相手にしてきたイスラエルや米国にとって大きな打撃だ。 「後任は誰になるんだろう。僕はいやだな。納豆の研究はもううんざりだ。終始足の指の間の臭いがするあの研究室に戻るのはいやだ。葛西、お前やれよ」 「いやオレ無理っすよ! 吉野家に依頼されてる赤くない紅しょうがの研究で精一杯なんすから!」 「ということは後任はイスラエル軍のイスラム原理主義組織ハマスさんしかいないな……」 「ハマスさんはダメっす。一度カレーライスにイスラム原理主義を適用させようとして大失敗してるんです。先輩も知ってるでしょ」 首相という立場を自ら放棄したアッバスさんはお気に入りのギンガムチェックのターバンをさわりながら静かに目を閉じて少し微笑みながら煙草を吸い続けていた。 |
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