2003年08月14日(木)  微笑むということ。
「私は普通の生活に埋もれてます。それは例えば目を閉じて微笑むみたいな」
 
昔の彼女から手紙が届いた。別れてもう何年経ってしまったか思い出せないくらい昔の彼女。それは例えば目を閉じて微笑むみたいな。
 
彼女が目を閉じて微笑んでる姿が脳裏に浮かぶ。少し俯き加減で微笑んでいるその唇を、その瞳を。顔の輪郭や表情は時間が経ちすぎてもう思い出すことはできないけれど、それでも途中で千切れてしまいそうな記憶の糸を慎重に辿っていくと、あの雨の日の彼女の唇に辿り着く。
 
「本当の気持ちを知ることができないことが、いちばん悲しい」
 
彼女はいつも真実を直視し、その大きさに、その哀しさに戸惑っていた。おそらく今も変わっていないだろう。本当の気持ちを知ることができないことが、いちばん悲しい。悲しいから、人はどうするか。ある人は本当の気持ちを知るために努力する。本当の受容と共感という意味を探ろうとする。ある人は、諦める。僕は今も昔も、そのスタンスは変っていない。
 
「時々思い出したときに変わってないモノの存在は意外に大きかったりします」
 
僕は人から「昔と全然変わってない」とよく言われる。僕は変わっていないイコール成長していないと捉える。成長しなければしないでいいと思う。真実から逃避しても、―――物理的に逃避したって、根底に流れるものは永遠に変化しない。時々こうやって「意外に大きかったりします」なんて言われると、
 
僕は目を閉じて小さく微笑んでしまう。

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