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| 2003年07月16日(水) 譲らないよ。 |
| 午後9時半。池袋駅のホームに立っていた僕の疲労は頂点に達していた。黄色い線の内側に立ち、疲れた顔したサラリーマン達と同じように肩を落としている。どうしても今日は座りたい。吊り革を持ちながら我が家に帰りたくない。座席に座りたい疲れてるから。疲労困憊だから。構内に電車が入ってくる。絶対座る。座りながら寝る。寝てこましたる。寝るからには今頑張らなければいけない。座席を確保できるよう人波を押しのけて努力しなければいけない。 ドアが開いた瞬間、鬼気迫る表情で座席を目指す。はは。座れたよ。僕の前に並んでたサラリーマン馬鹿。立ってんの。座席確保できないでやんの。僕は座れたよ。ほら、すごい楽。普通に眠れる。うちの駅に到着するまでずっと眠れる。疲れてるからね。と、あっという間に満員電車。 僕の前には明らかにお年を召したお婆さん。むむ。お婆さんだ。お婆さんが僕の前に立っている。僕は座れたというのに、大正生まれなのに電車内で数十分間起立することを強制されたお婆さんが立っているよ。僕は戦争を知らない世代なのに座っているよ。団塊の世代の人たちも座っている。僕の隣の鼻にピアスをつけた少年犯罪の世代の奴も座っているよ。戦争もオイルショックも知らないというのに若さだけを凶器にして座席を確保しているよ。 今はこんなに落ちぶれてしまっているけれど、僕はほんの数ヶ月前までお爺さんお婆さんの傷を処置したりオムツを交換したり、晴れた日はグランドを散歩していた職に就いていた男。座席に座れずに骨粗鬆症の大腿骨を駆使して起立しているお婆さんが目の前に座っているという状況をほっとけるわけがない。隣の鼻ピアスの馬鹿が立って席を譲ればいいんだけど、いかんせんこいつは若いので社会に対する礼節というか倫理感というかそういうものを持ち合わせていないのでウォークマンを聴きながら少年マガジンを読んでいる。読んでいるよ。僕は仕事で疲れてるっていうのにね。 電車はまだ出発していない。僕は席を立ち、お婆さんに席を譲る。いや、あからさまに「お婆さんどうぞ」なんて言うと、ちょっと偽善者っぽく周囲に映ってしまうので、「あっ! そうだ! なんか思い出した! すげぇ大切なこと忘れてた電車が発車する前に!」という表情をして突然席を立ち上がり電車を出る。僕の大根芝居によって高齢者の座席は確保されたであろう。よかったよかった。僕は全然よくないけどね。俄然座席に座りたい気持ちで一杯なんだけどね。 と、再びホームの列に並び直し次の電車が来るのを待つ。次こそは絶対に自分の座席を確保する。天皇陛下とか金正日とか僕の席の前に立っていても絶対席は譲らない。絶対僕の方が疲れてるから具体的にいうと世の中に対して。 |
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