2003年05月29日(木)  わびさび。
「はい」
 
窓を開け、パソコンの前に座る。パソコンはベランダの窓際に置いてあり、心地良い風が入ってくる。毎日のように向かいの建物から邦楽が聞こえる。おそらく有線なんだろうけど、朝から晩まで気が滅入るくらいジャパニーズでポップなサウンドが流れ続けている。
 
「はい」
 
ベランダから聞こえる声に振り返ると、隣の部屋の女性がベランダの壁越しに僕を呼んでいる。僕たちは今日みたいに涼しくて風が気持ちいい夕方はベランダの手すりに寄り掛かり、壁を隔てて話をする。時々彼女が持って来た本に書いてある難しい漢字にふり仮名を書いたり、意味を教えたり、その言葉の意味の意味を教えたり、ベランダで過ごす時間はあっという間に過ぎる。彼女は時々僕の部屋にも遊びに来るけど、こうやってベランダで外の風に当たりながら会話する方が僕は楽しい。
 
「どうして花枯れますか?」
 
彼女はベランダに置いてある鉢を僕に見せる。青色の小さな花と細い淡緑色の葉が、少し枯れかけていた。
 
「んー。毎日水をやったら元に戻るよきっと」
「毎日水はいらないです」
「そう。じゃあ部屋に置いてみなよ。毎日陽が当たるところに置いてるから疲れてるんだよきっと」
「そうかもしれませんね」
 
強い風がベランダを吹き抜ける。
 
「どうして口大きく開けてますか?」
「あ、あぁ、風を食べてたの」
「ご飯食べてないの?」
「いや、そういうわけじゃなくて、ほら気持ちいいでしょ」
「気持ちいいけど私は風は食べません」
「関係のないことに意味を付けたり、なんでもないことにこだわってみたり、見えもしないものを食べたりするのを日本ではわびさびって言うのです」
「わさび?」
「いや、わびさび」
「どういう意味ですか?」
「例えば風を食べること」
「難しいですね」
 
今日も二人で笑いながらいい加減な日本語講座をしながら何でもない1日が暮れていく。

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