2003年04月30日(水)  ズッコンバッコン。
どうも便所が詰まっているようだ。糞をして、ややあって、流す。ゴボゴボゴボという威勢良く水が流れ出し、溢れ出す。トイレの容量ギリギリまで水が溢れ、わぁ、こぼれるんじゃないかしら。と思ったところで、水域が下がっていく。しかもあれだけ人を狼狽させたくせに、糞は流れない。もう1度流す。やはりもう1度ゴボゴボゴボと威勢良く水が溢れ、ようやく排泄物はトイレから姿を消す。
 
引越し初日からこのような状態だったけど、2度流せば流れることだし、そんな、糞も、毎日するわけでもなし。毎日憂慮するわけでもなし。気にしない。腹もすっきりしたし、晩飯でも買いに行こうじゃないか。と実にさっぱりしたもので、別段気にもせず、引越してから4日程経ったのだけれど、今日はふと、来客について考えてみました。
 
誰かがうちに遊びに来たとする。トイレ貸してね。どうぞ返してね。などと下らない洒落を言いながら誰かがトイレに入り糞をしたとする。いっぱい出ました。わぁすっきり。お尻を拭いて、流しましょう。と、トイレの水をひねる。ゴボゴボゴボ。ありがとう。なんて言いながら部屋に帰ってくる。しかしまだ糞は流れていない。もう1度流さないと流れない。ややあって、僕が尿意を催す。ちょっと、トイレに行ってくるよ。ちゃんと帰ってきてね。などと下らない洒落を言いながら僕がトイレに入り、チャックを降ろす。わぁ。糞がある。糞があるよ。僕は今日、糞など出していないから、きっとあのコの糞だ。糞がある。糞が便器の中で我が物顔で鎮座してるよ。と実に困った事態になるのである。
 
この困った事態というのは、糞が流れていないという事実と、糞を1度しか流さなかった人に罪悪感がないということ。そして僕が糞が流れていなかったよ。と報告することができないということ。糞をして1回水さえ流せば妙な渦を巻いて糞ごと姿を消すということはもはや常識化、普遍化されていて、周知の事実だが、この非常識なトイレは2度流さなければいつまでもそこにダラダラと浮遊している。しかも、1度目の濁流で本来の形を崩された糞は、糞としての体裁を失い、糞らしからぬ妙に細々した糞に成り下がり、水質を汚濁し、しまいには悪臭を漂わせるという陰惨たる結果となる。しかも糞を排泄した本人自身はそれに気付くことはなく、てっきり糞は流れていたと思い込み、そもそも糞をしたことなど忘れてしまい、僕の尿意に伴ったトイレへの来訪によって、ようやくその事実が浮き彫りにされ、僕は見たくもない他人の糞と対面する羽目になるのである。そして僕は、おい糞が流れてねぇぞ。と報告することもできない。報告したとしても、糞をした本人にとってそれは晴天の霹靂であり、瓢箪から駒であり、泣きっ面に糞である。困った。
 
嘆いてもしょうがないので、対応策を考察、立案せしめる。たしか近所にドラッグストアがあったはず。あそこに行けばズッコンバッコンが売っているかもしれない。ズッコンバッコンというのは、トイレが詰まったときに用いる、あの不格好な道具のことで、正式名称なんて考えたことはなく、小学校の頃からズッコンバッコンと呼んでおり、トイレの掃除当番の折には、便器を磨くなどという野暮なことはせず、トイレが詰まってもいないのにズッコンバッコンズッコンバッコンやっていたあれである。
 
よし、あれを近所のドラッグストアで購入せしめよう。と、威勢良く靴を履き、踊るように階段を掛け降り、ドラッグストアへ走った。午後9時。店内にはホタルの光が流れている。人を憂鬱にさせる、あの曲である。畜生。こちとらトイレが詰まってんだい。野暮な曲はよせやい。あ、閉店ですか。そりゃ失敬。と、店内を早歩きで探索し、ズッコンバッコンを発見し、980円。高けぇなおい。どうしよう。高けぇなおい。1回しか、使わないのにな。貸してくれないかしら。などと少し躊躇してからズッコンバッコンを手に取り、ズッコンバッコンズッコンバッコンと小声で歩調に合わせテンポよく唄いながらレジに立つ。本日最後のレジ打ちがズッコンバッコンだということで露骨に嫌な顔を見せる店員(ネームに山口、と書いてあった)をよそに、税込み1029円を払い、店内を出て、ズッコンバッコンを振り回しながら、やはりズッコンバッコンと小声で歩調に合わせて唄い、我が家へ戻り、まずは一服。早くズッコンバッコンしたいのにタバコを一服するというこの悠長さ、もどかしさを丹念に味わい、いざトイレへ。
 
ゴボゴボゴボ。溢れてきた溢れてきた。馬鹿め。今日の僕は違うよ。ズッコンバッコンという近代文化が産出した素晴らしい道具があるのだ。もっと溢れたまえ。よし! 今だ! と頃を見計らい、ズッコンバッコンを挿入す。ズッコン! バッコン! とあまりにも威勢良く挿入したため、水しぶきがズボンにかかる。畜生。最後の抵抗か。返り血のつもりなのか。天晴れ。と、実に呆気なく水詰まりは解消し、実にやりきれない気持ちになった。僕はまだこっちに引越してきたばかりで友達が少ないので、もっとトイレと悪戦苦闘していたかったのである。

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