2003年02月12日(水)  孤独は孤独であって孤独にあらず。
昨夜、とある女性と食事に行った。最近オープンしたフードバーは定休日で、結局お洒落したにも関わらず居酒屋へ。いや、居酒屋でお洒落しちゃいけないってことじゃなくて、ただなんとなく居酒屋に行くには居酒屋に行くっぽい格好をしたいなぁ。って。居酒屋でスーツと蝶ネクタイって浮くでしょ。いや、僕がスーツと蝶ネクタイってワケじゃないけど。
 
彼女は物事をよく考えて深く悩む。僕は物事をあまり考えないくせに深く悩む。共通点が多いような僕たち2人も、ここが決定的に違う。僕は考えているようで、実を言うと底が浅い。深く見せようとしているだけ。近所の海水浴場のように結構浅い。しかも狭い。しかも汚い。空き缶とか下心とか。
 
しかし彼女は本当に物事をよく考えている。やや悲観気味だと思うけど、その意は否定できないものばかりで、僕たちは往々にして孤独なんだ。ね?
「うん。その通り」彼女はニッコリと微笑んでウーロン茶が入ったグラスを傾ける。僕は的を得た表現に満足して黒ビールを咽喉に流し込む。
 
僕は孤独に対して、どちらかというと楽しんでいる方で、孤独は孤独であって孤独にあらずという実に底が浅い哲学を持って毎日生活しているんだけど、彼女は、どこか、孤独に対して恐怖を抱いている感がある。孤独は桃源郷だと思うんだけどな。僕が僕の為に創った自分だけの世界なんだから。ね?
「うーん。どうかしら」
 
だけど僕たちは確固たる孤独の世界の傍ら、世の中の何処かと常に交わっていなければいけない。だから僕たちには友人がいて職場の同僚がいて仕事が終わったら皆で酒を飲んで職場の愚痴やらこの世の愚痴やらゲロと一緒に吐き出して、互いの繋がりをより強固なものにしようとする。しかし傍らは孤独の世界。大いなる矛盾の元に僕たちは生活している。
 
――
 
「キミは人生の柔道家だ」
 
職場の先輩にこんなことを言われた。人生の柔道家、なんだか格好いいじゃないか。意味がわからないじゃないか。なんですか人生の柔道家って? 寝技は一級品とか? へへ。
 
「馬鹿。違うよ。受け身だけは一級品ってことだよ」
 
ぐへ。
 
――
 
黒ビールを飲み干して、タコわさびをつまみながらそう言われたことを思い出していた。人生の柔道家。襲い掛かってくるあらゆる苦難やストレスを受け止めて、衝撃を吸収して、いつも涼しい顔をしている。これが僕。吸収された衝撃は外見に何の変化ももたらさず、心の隙間に潜り込み、やがて胃潰瘍という心身症という病に変化して時を経て体外へ姿を現す。なんてね。
 
あとは人それぞれが持っている器の中の水の容量はいつまで経っても変化しない。変化するのは器の形だけだ。って話をしたけど文章で説明するのは少し面倒臭いので省略。要するに僕の容器の底は驚く程に浅いってこと。
 
「はい、少し早いけど」
 
一足早いバレンタイン。車の中でプレゼントの包装を解く。バレンタインケーキと2冊の絵本と短い手紙。
 
「ありがとう」
 
こういうときだけ、僕は確実に素直になれる。僕をとりまく建前とか打算とかそういうものが全て崩れ去る瞬間。「本当にありがとう」
 
孤独は孤独であって孤独にあらず。ってね。

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