READY!STEADY!どっこいしょ!...刈田

 

 

親父に会った日 - 2002年12月03日(火)

寝れないので、今日、起きたことを整理してみたいと思う。

今日、親父に会った。
と言っても血縁ではなく、
オレが勝手に「親父」と呼んでいる人物に会ったのだ。
その名は富野由悠季。
そう、機動戦士ガンダムを手がけた、あの演出家である。
今、親父は「オーバーマン キングゲイナー」という新作を、
WOWOWで放映している。
この12月下旬に、そのDVDが発売されるということで、
週プレのパブ取材という名目での接見である。
今回の取材〜入稿までのスケジュールは、
年末進行ということもあり、非常にキツイ状況だ。
が、長年夢見た親父との再会である。
そのモチベーションのみで仕事を受けた。

インタビューとは、ある種の戦いである。
話の主導権を握るのはこちらか、向こうか。
こちらが握れば、思ったとおりの原稿に落としこめる。
が、向こうに握られてしまった場合、
必然として当初考えていた原稿は書けなくなる。
もう一度言う。インタビューとは戦いなのである。
結果から言えば、今回の取材はオレの惨敗だった。
でも、感動はひとしおだ。

本や映像で見る親父はいつも気難しく、暴言を吐くような人であった。
ところが目の前に現れた親父は、陽気でおちゃめなオヤジであった。
取材の冒頭、
「今日は生き別れの親父に会いに来る気分でやってきました」というと、
親父は「産んだ覚えはない!」と爆笑。
実に親父らしい受け答えだと、うれしくなった。
さらに「レジメを読ませてもらったけど、そんなに硬くなる必要なないのよ〜」
この発言は「キングゲイナー」を解く大きなカギだと感じた。

緊張で忘れている部分も多いが、
以下、親父の発言を箇条書きにしてみよう。

・キングゲイナーは作っていて楽しい。
 それは前作のターンエーガンダム以上の楽しさである。

・ギャグというとダイターンやザブングルを思い出すが?の問いに、
 その2作と何が違うのかと言われれば違いはないのかもしれない。
 あえていうとするならば、フィルムが持つ臭いや雰囲気が違う、と。
 
・本来、映像とはエンターテイメントであるはず。
 個人の趣味や作為が入ってるものは、エンターテイメントとは呼べない。
 実はターンエーの頃は、キャラクターたちに監督個人の思いを込めた、
 作為的な演出をしていた。
 ところが今回は、そのような作業はまったくやっていない。
 キャラクターが自ら動き出し、ギャグやユーモアを行っている。
 今回はやっとその境地を獲得することが出来たという。

・ギャグやユーモアという意味では、三谷幸喜に一目置いている。
 もし、三谷氏から監督の依頼がきたらどうするか?の問いに、
 「負けたくないのでお受けする」。

・オープニングではキャラやロボットが踊り狂っているが?の問いに、
 主題歌を発注した田中氏があまりにもいいものを上げてきたので、
 それに負けたくないから、ああしたと。
 サビの「キンキンキングゲイナー♪」の部分で、
 まずモンキーダンスを発想。
 続いてラジオ体操のようなのびのびダンス(?)を発想。
 何かが足りないと、さらにフィギュアスケートののりを付け加えたという。
 ちなみにこのOPだけで、なんと1週間も悩んだらしい。
 「いいかげんに作ってるわけじゃないのよ! 全部理詰めです!
  それを作為的に感じさせないのが、プロです!」
 実はエンディングにも制作秘話があるのだが、
 これはオフレコということのなで書かないことにする。
 
・今回のドラマのテーマ「出エジプト紀」を選んだ理由は、
 今の世の中は政治にしても何にしてもおかしい。
 そういう世の中を作ってしまったのは、自分の世代の責任である。
 ならばそういう状況を打破したい、できないか?と考えた結果の、
 「エクソダス」なのだという。
 この辺は実に親父らしい言葉だ。
 
・ドラマの舞台はシベリアだが?の問いに、
 もちろん極限状態に近い状況にキャラたちを置きたかったのもあるが、
 そもそもシベリアは日本と馴染み深い土地だ、
 ということを言いたかったのもある。
 「あんな世界一まずしい、
  近代化されてない世界にたった2時間でいけるのよ!」

・シベリアのロケのエピソード。
 まず北極点に近いので、月が低い。
 ロジックとしては知っていたが、実際見ると感動的だった。
 さらにシベリアの女はみんなミニスカで胸の第二ボタンまで開けて、
 我、女なり!をアピールしまくっているという。
 また売春婦もなぜか健やか(健康的)であると。
 それは日本における援助交際のしみったれた感じとはまったく逆。
 むしろ売春という行為は、そもそもこういう凛としたものだったのでは?
 と感動した。
 なのに現地に売春ににきてる日本人の同年代の親父たちは、
 金に物言わせてガハハー!とやっている。
 もうちょっとインテリジェンスを感じさせる口説き方ができないものかね?
 いすれにせよ、シベリアで見た人々の生き様は、
 そのままキャラクターに落とし込まれている。
 アデットなんかは、まさにシベリア女性である。

・主人公ゲインに、アムロの幻影を見てしまうと言うと、
 実はあのキャラクターは当初と違う設定になっていると。
 スタッフの意見の総意として、あのキャラクターに落ち着いたらしい。
 今回の取材で、これが一番意外だった。
 
・週プレでガンダムの特集をやると、
 グラビアのキレイなおねーちゃんよりもランクが上だ、という話に親父は、
 「それ、本当にそうなの?」とちょっと複雑な表情。。。
 ガンダムがここまで人気を得られているのはうれしいことだが、
 ガンダムばっかりじゃなくて、
 巨乳を吸ってる合間にガンダムって程度でいいんじゃない?
 さらに、ちゃんと女を口説けるようにならなきゃダメだ! 
 メール、出会い系なんてもてのほか!
 ちゃんとラブレター書いて、直接渡して、
 間近でおねえちゃんの表情見ないとダメ!
 特にオタクの人はフィギュアいじってちゃダメでしょう!
 あれは後戻りできません。
 ちなみにボクの作品では、こうしないと女のコは振り向いてくれないよ、
 というのをちゃんと描いてます。
 これからゲイナー君もそういう自体に直面していきますね。

このほか、クレヨンしんちゃんを参考にした、
「楽しい漫画映画を作って死にたい」という発言は、
日本人的なロジックでとりあえず言ってしまっただけ、
キングゲイナー終了後は1年休みたい、なんて話も出た。
しかしロボットアニメなのに、ロボットの話を何も聞かなかったのは、
インタビューアーとして大失格だ(苦笑)。
どうやって原稿まとめたらいいかまったくわからんという状態だもんな。
だがシベリア話から始まる、セクハラ&恋愛トークは収穫だった。
実はオレ、恋愛面においてはシャアを参考にしている。
特に「逆襲のシャア」のシャアはカッコイイのに甘ったれで情けない、
というモテ男の本質を見事に描いている。
またその姿はまさに親父自身なのではないか?と。
直接会って思ったのだが、親父は絶対にモテるタイプだ。
あの無邪気さは女の心をくすぐるに違いない。
親父と恋愛本を作りたい。素直にそう思った。

インタビューの最後、撮影の合間に親父が言った。
「キミは今、いくつなんだっけ?」
オレは「今年で31歳になりました」と答えた。
親父は「ふーん」とうなづいただけだった。
この「ふーん」にはどんな意味があるのだろうか。
単にはじめの「親父に会いに来た」発言を受けて、
「息子を名乗ってるけどコイツっていくつなの? 31? なるほどねー」
ということかもしれない。
あっ、「早くガンダムを卒業しなさいな!」が正解だな。




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