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2005年02月02日(水)
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見舞い |
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祖母のお見舞いに行って参った。
いつもより10分早く起床。 メールチェックをしてから顔を洗って化粧を・・・している時に母上から電話。 「あと7分で着く」 という微妙な分数に大慌てで取り合えずファンデと口紅だけ塗る。 トイレに行こうと1階に下りた途端に「プアン」とクラクション。 仕方なくトイレは断念して母上の車に乗った。
叔母ちゃんを拾ってホームへ。 叔母ちゃんも母上もホームの場所を知らずに行こうとしてた事が発覚。 たまたま、お相手が勤めてたので私が知っていたから良いものの。 知らなかったら、あんな細い道にある建物なんぞ見つけられなかったぞよ。
ホームの玄関はロックされていて、中に入るのは良いが出るには暗証番号を入れなければならない。 お婆ちゃんが居た皆が集まる部屋(何て呼ぶのか分からん)も上の方に鍵があった。 多少はホームというものがどんな感じか聞いてはいたけど、実際に扉ごとの鍵とかを見ると何とも表現し難い気分。
っていうか。 そうなのだよ。お婆ちゃんは皆が集まる部屋に居たのだよ。 「危ない」と聞いて行ったので、てっきりベッドに寝ているかと思ったら車椅子に座ってた。 誰とも喋らずボーっと座ってた。 職員さんに押してもらって、入り口すぐの来客用らしきテーブルへ移動。
「お婆ちゃん。誰だか分かる?」
叔母ちゃんが話し掛けると首を傾げる。
「S子よ。S子。」
「S子か。」
誰だか言われれば分かるらしい。
「こっちは誰だか分かる?」
「レイコ」
「違うでしょ。Tちゃん(父上の名前)の嫁のY子でしょ」
「Y子か。」
「じゃぁ、こっちは誰?」
「レイコ」
「Tちゃんの娘の あるひ でしょ」
「あるひか。」
「じゃ、これは誰?」
「S子」
しばらくして、また聞く。
「これは誰?」
「レイコ」
「S子よ。S子」
「S子か」
「じゃ、こっちは?」
「Y子」
名前を教えた後、「あー」という声にならない口の動きが入り、「○○か」の「か」に、私達の存在の記憶はあるんだろうなと思った。 お婆ちゃんが相手が誰だか分からなくなったのは、ここ数ヶ月らしい。 去年、他の親戚が行った時には「S子に会いたい」と言ってたそうだ。 一番お婆ちゃんが会いたかったS叔母ちゃんなんだけどな。 何故か叔母ちゃんより母上の方が間違えられる率が少なかった。
2年ちょっと前まで地獄耳だったのに耳元で話さないと聞こえなくなったのと、池田あきこさんが描くダヤンみたいだった眼が小さくなり、体が一回り小さくなった以外は私の良く知るお婆ちゃんのまんまという印象。
「お婆ちゃん、そろそろ帰るよ」
「どっか寄るのか?」
これも、いつも誰かが帰る時の口癖だった気がする。 でも、本当に母上と叔母ちゃんは温泉の予定が入ってたもんだから思わず私は大笑い。 お婆ちゃんってば鋭いじゃないの。 っていうかね。 誰よ?危ないって言ったの状態。
ただ、どこを見るでもなくお婆ちゃんがふいに言った言葉が気にかかる。 「不安なんだ」って、確か言ったのだけど。 母上と私が聞き返しても、何も言ってないかのような顔をするばかり。
元々、お婆ちゃんは人の話を華麗にスルー名人だった。 嫁の嫌味が聞こえても表情一つ変えず、まるっきり聞こえてない顔をしてる人だった。 とにかく気が強い人だという事は叔母ちゃんから聞いているので、それが慣れっこだったからなのか、お腹の中で本当は何か思ってたのかは分からない。
お婆ちゃんは、定期的に「お腹空いた」「ご飯?」を繰り返してた。 持って行ったクッキーを指差して、頂戴というように手を出す。 2つだけコッソリ(本当はダメらしい)上げて、「もう直ぐお昼だから」と言うと大人しくなる。 言ったことを忘れて繰り返したりはするけど、思い通りにならないと癇癪を起すでもなく。 あくまでも静かな声で「お腹空いた」と言うだけ。
ボケて尚、聞き分けの良いお婆ちゃん。 「これ、誰?」という何度もの問いに何度も素直に答えるお婆ちゃん。 食べ方もお茶の飲み方も凄く綺麗で。 子供返りと言うけれど、子供にしては大人すぎるお婆ちゃん。 痴呆のお年寄りの話を色々聞いて知っているけど、お婆ちゃんは物凄く大人しいボケ方をしたみたいだ。 せっかくボケたんだから、もっと感情の起伏激しく周りに迷惑かけりゃぁいいのに。
父上の亡くなった後、家まで送る車の中で同じ申年の私に 「申年の女は苦労するんだ」 「私も色んな仕事をしてきたんだよ」 と言ってたお婆ちゃん。
そんなに聞き分けが良くなるほど、何を我慢してきた97年間なんだろう。
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