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2003年05月09日(金)

真顔で笑う男

本日の業務はこれにて終了。
只今15時半。
と、思ったら、まだ見積が来てない事に気付いた。
ビデオでも観ながら、ベッドの上で待つ事にしよう。

世の中、不景気と言われて何年経つのやら。
ここに来て、ますます不景気だと思われるのが、仕事の単価が下がりすぎっつーところだ。
見積を出すと必ず叩かれる。
叩いて叩いて、おおおおーーーいっこっちの儲けがねーぞーなんて事は、客の知ったこっちゃないらしい。
待っている見積もそうだ。
「平に」なんて語句を間に入れてきたそのメールには、要は「ン十万下げろ」って事が書いてあって。

私の1月までほぼ社員として契約していた会社。
何故か社員じゃなくなった途端に、仕事がバンバン来だした。
ま、それで他に職を探すでもなく、今の私が成り立っている訳ではあるのだが。
その前に会社自体は、危機的だったらしい。
社長は、以前の会社の同僚で。その以前の会社の社長っつーのが外国人で。
契約社会の人らしく、ちゃんと社員とは契約書を交わし。
しかしながら、平気でそれを難癖付けてバックレルという大したヤツだった。
その教訓からか、彼は私への支払いを滞らせずに頑張ってくれていたらしい。

そんな無理がたたって、真っ赤な帳簿。
仕事がバンバン来だしたのは嬉しい限りだが、今までの赤を埋める為に経費を削る方向で。
となると、必然的に外注は使わず。全ての仕事は社長自身の肩に。
っつーことで、私は社長の作業が終るまで待つハメになりGWを休んでいたのだ。

ド素人から見たって、寝る時間も無いだろうと思われる仕事量。
しかし、彼はマイペースなのか、開き直り大臣なのか。
GW中に上げるべき仕事が来ない事に不安になり、
「今日は、仕事上がってきますか?」
とお伺いのメールを送ったところ、

「今日は。。。どれも上がらないような気が。。。今晩からかかろうかと。。。」

あまりにも気弱な返事が帰ってきた。そして、更に、誰も聞いちゃーいないのに

「ゆうべ??の、のみに行ってまして。。。」

と御丁寧に自己申告された。

そしてGWが明け、GW前に「GW明けに納品します」と返事しちゃった仕事はどうする?と思い、聞いてみると、督促の電話も入っているその状況で、更に仕事が増えたらしい。

「じゃぁ、○○社の担当に、「それ無理じゃんっ」って言ってやんな」

と、面白いので私が言ってみた所、

「いや、それ無理っつーより、「バカじゃんっ」って感じ?」

と答えて居たが。
まさか、お客さんにそんな事は言えまい。

そして、先ほど。
週末の作業があるかどうかを電話したところ、またまた別件の急ぎが入ってどーにもならないと言う。
ま、他人事なので「じゃぁ、頑張っておくんなまし」と励ましの言葉をかけたのだが。

「あ、俺、今日17時半には居ないから」

などと言い出した。
「へ?この状況で?どーすんのよ?」と尋ねたら、「だから焦ってるんだ」と言う。
いや、焦ってるのは出かけたいからで、私が言いたいのはその状況で出かける社長の神経を疑ってるっつーことなんですが?
とか内心思いつつ、

「○○社の行方やいかにっ!っつー感じだな」

と、多少の客先への同情と、社長の会社の行く末に不安を思えつつ言い放つと。
電話の向こうから、受話器を30cm離してもうるさいぐらいの笑い声が聞こえた。

なんと言っても、この社長。特技は真顔で笑い声を上げられることだ。
竹中直人の「笑いながら怒る人」っていうのがあるが、彼は「真顔で笑い声を上げられる人」なのだ。
その笑い声は、笑い袋そっくりで、聞いているだけなのに笑わずにはいられない迫力がある。
すっかり慣れている私なので、「それ、真顔だろ」と電話でも指摘できるのだが、知らない人が聞いたら、本気で壊れたと思われるぐらいの笑い声だ。
いや、多分だが。本人もわきまえているので、他人にはしていないと思うけど。

普段なら、その笑い声の上手さを自覚しているらしく、自慢気に何度も聞かされるハメになる。
しかし、今日は事態が違ったらしい。
高らかに笑った後、急に社長は小さな真声になり、

「やべっ 窓開いてるんだわっ」

と呟いた。

ああ、確かに。
そこはマンション。両隣は小さいお子さんのいる家族だ。
だけど、誰もまさか一人で社長が笑っているとは思うまい。
しかも、真顔で。
不気味すぎ。


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