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2003年04月23日(水)
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母上との会話 |
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今日は父上の墓参りの日だ。 さっき、久々に母上から電話があった。
「今日、お父さんとこくる?」
と聞かれたので「今日か明日か迷ってるとこ」と答えた。
「私、お父さんにお水しか上げてないから、アンタ来るならウーロンハイかなんか持って来て」
と言われた。
「お父さんには、後であるひが持ってくるからって言っといたから」
既に、父上に言われたとなればそうせざるを得ない。確信犯だ。 いや、元々、そうしようと思ってて。でも、今日は用意が無いから悩んでいたのだ。 このウーロンハイ。カンのヤツがなかなか売ってる場所が少なくて困るのだ。
母上の話はポンポン飛ぶ。次にはパソコンを習いたいが始まった。 広告が入っていたらしい。時代に遅れをとってることを気にして、ずっと前から同じ事を言っている。 なのに、始めない理由は「それほど暇じゃない」。いつもそうだ。
その話が終らない内に、いきなり今度は
「あたし、眉毛の刺青しようと思って」
と言い出した。「はぁ?」と言うと、父上の妹である叔母ちゃんは10年以上も前にやっているという。 叔母ちゃんはピアスもいっぱい空けてて、ハイカラだ。 母上は、父上が亡くなってからピアスを開けた。父上は耳に穴をあける事が嫌いだったはずだ。 それが今度は刺青か。眉毛の刺青。 顔だ。顔だよ?失敗したら、例えばハの字眉毛になったら、一生困った顔っつーことだ。 「ん〜・・・刺青はねぇ」と私が言いよどむと何を勘違いしたのか母上は
「刺青って、タトゥーよ。タトゥー」
と教えてくれた。 そんぐらい知ってるっつーの。 まさか、昔の背中に観音様とかを私が想像するわけないだろう。 タトゥーと言おうが刺青と言おうが、身体に墨を入れるのは同じだ。 で、その金額はいくらかと尋ねたら、「8万円ぐらい」だと言う。 叔母ちゃんがやった時は「20万円」だったと言う。 だから、
「8万円ぐらいならいいかなぁと思って」
と母上は言う。 「8万円」を「いい」と言える母上は、どういう生活水準なんだ?と我母親ながら恨めしく思う。 それは、私の家賃より高い金額だ。 父上だって、快くは思わないだろう。とあまり私は勧めたくない返事をしていると
「あ、お父さん怒ってる。煙が急にモクモクしてきたっ」
と母上が言った。 そのときに、母上が父上の墓の前から電話してることに気付いた。 おいおい。家に帰ってから電話してもいいだろうが。 お墓で携帯使ってるヤツって、少なくとも私は見たことないだよ。
「うわっ、。ほんと、すごい煙」
相当、父上は怒っているらしい。 そして、また話は飛んだ。
「この間、歯医者言って歯茎切られたのよ」
「なんでよ?膿みでも溜まったか?」と聞き返すと、どうやら奥歯の治療をするのに歯茎を下げないと出来なかったらしい。 それは、大変でしたな。と気の無い返事をしてみると、また話が変った。
「福島行って来たんですわよ」
時々、母上は私に敬語を遣う。 気に留めずに「ほー。良かったじゃん」と答えると
「雪は溶けてないし、桜も咲いてなかったわ」
と言う。 あんまり気のない返事をしてても何なので、「季節がこっちと大分違うね」とお愛想を返しておいた。
「そうなのよ。でね、その歯茎の処置で包帯グルグル巻きみたいにして行ったんだけど」
話が変ったと思っていたら、どうやら歯医者の続きだったらしい。 っつーか、包帯グルグル巻き「みたい」っつーのは、歯茎にか?顔にか? 分からん。 尋ねる間も無く母上は続ける。
「だから、何食べても美味しくなかったのよねー」
「そりゃそうだろう」と言うと
「だけど、しっかり太って帰ってきましたわ」
とのたまう。 多分、母上は息をしてるだけでも太るタイプだろう。 っつーか、その喋りをまだ続ける気か?と思っているとまだ話は続くらしい。
「先生にね、「食べれましたか?」って聞かれたんだけど」
だろうね。普通、歯茎切られたら2-3日、あまり食べれない事は私も経験済みだ。
「「食べれなかったけど、太りました」って答えたら、先生大笑いしてたわ」
そりゃ、笑うだろう。笑うしかない。
「あの先生、最近、冗談も分かるようになったのよ」
確かにその先生。過去に私もかかった事があるが、堅物で怖くて嫌なので辞めた先生だ。 母上の人を見る基準は、自分の冗談が通じるか通じないかである。 多少、毒とも嫌味ともとれる母上の冗談に対し、笑わない人は 「へんくつで、つまんねーヤツ」 になるらしい。
「ああ、先生も歳食ったってことだ」
そう、教えてあげた。人は歳とると丸くなるものだ。 すると、母上は
「それもそうだけど、競争だからね。変なことすると患者さん来なくなるから」
いや、堅物で無愛想なのは「変なこと」では無いけれど。 まぁまぁ。言ってる意味は分かるから「競争だ」と鸚鵡返ししておいた。 私が鸚鵡返しをする時は、話を流している時だ。 昨夜観たユウカとさまぁ〜ずの番組の「イケメンマッサージ」の店員である外国人が、客である女性がベラベラ喋る合間に
「ナールホドーォ」「ナールホドネェ」「ソノ気持チハヨク分カリマス」
と答えていたのよりはマシだと思う。 母上は、喋りたい事を喋り尽くしたらしく〆の言葉に入った。
「まぁ、またお暇な時にでもお昼食べましょう」
「ああ、分かった」と、実は今も暇なのに、出るのが面倒で忙しいフリをした私が答えると
「御墓の前で電話してるは、変よねぇ」
と、やっと気付いたらしく言い出した。 遅すぎる気付きだ。 「ああ、そうだな」と答えると
「お寺のバアさんが、遠くから変な目で私を見てるわ」
母上の視力は老眼だが遠いものは良く見えるらしい。老眼だからか。 っつーか、不審な目で見られるほど、墓の前で喋り倒すなよっつー話だが。 しかしながら、少しホっとした。 もしかしたら、母上の「バアさんが」の声は、その本人である「バァさん」に聞こえているかもしれない。 携帯だと、母上の声は大きくなるからだ。 でも、普段なら「ババァ」という事もあるので、聞こえても「ピクッ」とする程度の多少丁寧な言い方で良かった。
最後に母上は
「じゃぁ、お忙しいところお邪魔しました」
と言って電話を切った。 ほんとに。 仕事中で無くて良かったとしみじみ思う私である。
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