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2003年01月20日(月)

謎の物体

眠れなかった。
親知らずが大反乱を開始して、眠れなかった。
本来6時間以上間隔を空けるべきバファリンを、眠れないから空腹のまま3時間後に飲んで、ちこっと眠れた気がした。
起きたら、何気に腫れているが、痛みは触らない限り無い。

うぅ・・・でも、これ。何か食べたら途端にまた痛み開始しそうな感じ。
歯医者は水曜日の午後3時半。それまで、我慢できるんだろうか?
っつ〜か、とうとう抜くか?体調悪い時期なんすけど。
すんげーーーーー憂鬱。

憂鬱と言えば。日常で私が憂鬱になるのは、
嫌々出かけなければならない用事。店の手伝い。歯医者。
以上、3点だけな気がする。
仕事に関しては、ただ面倒なだけで、憂鬱にまでならない。
しかし。正反対の思考回路を持つお相手は、立派な『憂鬱症』である。

彼は、日曜を一日中憂鬱に過ごした。
事件は、私が友達としこたま喋り倒して帰宅した、日曜の午前0時過ぎに起きた。
どうやら、体調が悪く一人なのに呑みにも行かずに御飯を食べ、ビールを一本飲んだだけで酔ったらしい。
して、私が戻ってきた時には、一度すっかり眠って目が覚めて、テレビを観ている状態だった。

普段、全く出かける事が無い私がたまに出かけたもんだから、ヤツは「お土産」を要求していた。
仕方ないので、要求どおり肉まんやらを購入した。
家に着くと居間で寝転ぶお相手に、早速「ほらほら。キムチ饅とチャーシュー饅と肉まんね」とご披露をした。
「明日食べるわ」というので、それらの荷物をちゃっちゃと台所へ持ち帰り、手を洗って着替えを済ませた。

と。
座椅子の横に、何か黒い染みを発見した。
ヤツの家は、最初から薄いグレーのカーペットが貼られている洋間なのである。
私は出掛けに、ある程度の部屋の掃除をしていたので、あきらかにその後に出来た染みである。
染みの側にん〜こ座りして、それを観察すると、何やらネットリ気味の品である事が分かった。
しかも、それは、こんもり状態を何かで擦ってしまった形跡である。

たまにしか会わない友達と、物凄く楽しい数時間を過ごした私は、興奮冷めやらぬ上機嫌で、台所へ行っていたお相手に声をかけた。

「おやぁ?んーこ落ちてるぞっ」

いやいや、冗談である。
普段から、外での仕事のヤツの作業着を部屋に干すせいで、石ころを発見する事がしばしばなのだ。
しかも、ヤツは酔ってると御飯類をこぼすクセがある。
だから、私としては

1.泥 2.ヤツの好物のごはんですよ系 3.もしかしたら買ってきた饅頭類のアン

だと思いつつも、面白いからという理由で「んーこ」だと言っただけなのだ。
しかし、忘れていたがヤツは異常に神経質な性格だった。
冗談を冗談だと笑いもせずに、血相を変えて、その物体を見に戻ってきた。
それを見て余計に可笑しくなった私が、「ん〜な訳ないじゃん?」と笑い飛ばしている横で、ヤツは匂いを嗅ぎ出した。

余談だが。食器洗い洗剤のCMで弁当を洗った母親が娘に「匂いしてみるぅ?」って聞くんだけど。
あれって、日本語変だろ?
「匂い嗅いでみる?」だろ?「匂い」は、「する」もんじゃないだろ?

まぁ、ともかく、ヤツはその物体の側で四つん這いになって、床スレスレに鼻を近づけて匂いを嗅いだ訳だ。
そして、一言。

「まじ、んーこだっ」

それからは、大騒ぎになった。
本当なら、私も嗅いで確かめるべきだったのだろうが、んーこだと聞いたからには嗅ぐのが躊躇われた。
ヤツは、さっさとティッシュでその物体を回収しウロウロし始め、ファブリーズだと騒ぎ始めた。

その時点で、まだ私はヤツの主張を信じていなかった。
よって、冷静にティッシュを濡らして叩いて染み抜きし、ここのファブリーズは殺菌効果があるのか?と尋ね、確認してからヤツの目の前にあるのに見つけられないファブリーズを手にとり、ヤツが納得するまでかけてやった。
私としては、決して絶対あっては為らぬものだと思っているので、目の前から消え、殺菌までしたのだから深追いをする気は無かった。
しかし、神経質なヤツはダメだった。

「なんで、んーこがあるんだ?どこから来たんだ?俺か?お前か?」

と、真相究明するまで落ち着かないらしい。
仕方ないので、私は服からカバンから袋から全てを確認したが、それらしき跡は見付からない。
ヤツは、玄関に行って、私の靴の裏まで確認したらしい。
そこで、ウロつくヤツの後姿に、私は新たな物体を見つけてしまった。

「わかった。アンタ、ズボンで擦っちゃってるよ。」

分かったというのは、その物体を擦った物が私は気になっていたからだ。
そう言うと、ヤツはこれまた血相を変えて、私の前に四つん這いになって見て見ろという。
その格好があまりにもバカ丸出しなので、笑いそうになったが、ヤツは真剣だ。
ここで笑ったら親の仇状態で怒るに違いないので、我慢した。

「ああ、付いてるって」

と答えると、今度は鏡の前で確認しようと、腰を捻って頑張り出した。
あんまりにも情けないので、

「あんさぁ〜、脱いで確認したらいいじゃん?」

と教えてやったら、そりゃそうだと納得した様子でズボンを脱ぎだした。
すっかり、冷静さを失っているらしい。
そして、確かに物体の上に座ったらしいズボンを確認すると、また大騒ぎだ。
今度は、パンツになった状態でパンツを見てみろと、また例の無様な格好をする。
だんだん、バカらしくなってきた私はあくまで冷静に

「それよか、トイレでパンツ脱いで確認してきなよ。」

と勧めた。ヤツは早速トイレに行って出てくると、
「何もついてない。俺、風呂入ったもん」と自分は綺麗だ説を唱え始めた。
「じゃ、ほんとはんーこじゃないんだよ。気にすんな。」ともう、ひとしきりの騒動に終止符を打とうとしたところで、更に物体を発見してしまった。
第一発見場所のすぐ横の座布団と、居間の入り口にペチョっと落ちていたのである。

ヤツが、どうしても「んーこ」だと主張するのは、匂いだけのせいでは無いということが、その後のヤツの告白であきらかになった。

「お前が電話して来た時、俺、んーこしたくてしょうがなかったんだよ」

ヤツは言い出した。
それを聞いて、まさかとは思うが、ヤツが幼稚園でやったら一生言われつづける「んーこ漏らし」をしたのか?と、さすがの私も疑惑の目を向けた。
しかしだ。冷静に考えると、漏らしたらパンツに被害が及ばない訳が無い。
それとも、トランクス派のヤツの足の間から、うまいことすり抜けたとでも言うのだろうか?

しかし、時刻は夜中の1時近くだ。もう、んーこ談義はうんざりだ。
「原因が分からないと気になる」と言い続けるお相手の落ち着きの無さに、なんとか気をそらして欲しいと願いつつ、
「泥だよ。アンタの作業着って、一回じゃ落ちない事あるし。」
と私は告げて終わりにしようとした。
それでも、気になる気になると言い続けるので、
「わかった、アンコだよ。肉まんの袋に付いてたんじゃないの?」
とも言ってみたのだが、納まらない。
すっかりズボンも履き変えて、座ってはいるけれど、一生懸命にまだ物体の出所を考えている様子だ。

これまた、気を紛らわしてやろうと思いつつ小腹も空いたので、「肉まん食うか?」と聞いたのだが、要らないという。
仕方なく、チャーシュー慢を一つレンジでチンして一人で食べようと、熱さを格闘していると、ヤツが何やら視線を送る。
「食うのか?」と尋ねると「ちょっとだけ」と言うので仕方なく二つに割ると。
ん〜・・・・・似てる。物体にソックリな餡が入っている。

「もしかして、このチャーシュー慢からはみ出たんじゃない?」

買ってきた饅頭達は、カチカチで、中の餡など見えても居なかったが、無駄だと思いつつも言ってみた。
しかし、やっぱり無駄だった。匂いがしたの一点張りだ。

その後も、しばらくすると「もう、考えるのやめたよ」とヤツはなんとか自力で立ち直ろうとするらしいのだが、直後にまた「どっからきたんだろう」と始める。
「もう、考えるのやめたよっ!」と私に宣言しては、またブツブツ言い出すの繰返し。
それでも睡魔には勝てないらしく、ヤツは布団に入ると、先日買った犬の顔の抱き枕に向って
「そうか。お前かっ。お前がやったのかっ」
と無理矢理罪を擦り付けて、2時前には眠りに付いた。

やれやれと思って、私も眠ったのだが・・・・・・・
翌朝。
起きて台所に行くと、上下バラバラのスウェットに身を包んだヤツが、椅子に座って斜め上を見ている。

「お前は、橋幸夫(いたこのいたろう熱唱中の)かっ!」

と突っ込んでやると、ヤツは大真面目に答えた。

「んーこの落ちてくる穴があるかもしれない」


・・・・・
もう、相手に出来ない。
出来ないが一応、落ちていた場所は居間だったので、それだけは「穴があるとしたら、居間の方だから」と突っ込んであげたが。

こうして、ヤツは日曜の午前0時過ぎから、夕方までずーーーーーっと。
んーこらしき物体に心を支配され、憂鬱な一日を過ごしていたのである。
ヤツの神経がぴりぴりしているおかげで、こっちは飛んだ迷惑な日曜だった。

ちょうど、夜。特命リサーチっつー番組で、酒で記憶を失わない方法なんぞをやっていた。
ヤツが、たかが一本のビールで酔っ払わなければ、多分、物体の正体は判明しており、それどころか、存在していなかったのかもしれない。

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