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2002年12月05日(木)
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見間違い |
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今朝の私の肌はプリプリ(な気がする)。 30も大分過ぎて、朝っぱらから顔がテカってどうするよ?って感じさね。
昨夜は、牡蠣だったんだな。気仙沼から送られてきた牡蠣。 生のまんまでツルンとどうぞな牡蠣。 でも、生牡蠣は好きじゃないので、レア―がお好み。 お相手が、5つぐらいしか生で食ってくんないもんだから、残り全部牡蠣フライに。 小指から人差し指くらいの大きさの牡蠣なんすがねぇ。 30個牡蠣フライにしまして、15個食べちゃいましたっ(数の単位が間違ってる?) コラーゲンだっけ?たっぷりプリプリっす。
あ・・・今、気付いた。 このテカりは、もしや、牡蠣ではなくフライの油が身体から滲んでる? まぁ、いいか。フライ大好き。自分で揚げると尚おいしい♪ とにかく、お肌の調子は絶好調だ。
その絶好調で早起きして銀行に行って来た。 テコテコ歩く帰り道。 前から、ちょいとケバいオバちゃんがやってきた。 擦れ違った瞬間、人生できっと初めてと思われるほどの勢いで、私は首ごと身体ごと、クリンと捻って振り返ったのさ。 まるで、有り得ない物を見たみたいに。
昔々。まだ、私が中学生だかの頃だったと思う。 父上の工場の上に、従業員のDさんが住んでいて、ある日突然、そのDさん宅に見知らぬ女性Mさんが一緒に住むようになっていた。 そのMさん。その頃の安いバー辺りに居そうな、お水風の人だった。 現に、どっかの飲み屋からDさんが拾って来たんだろうって父上も言ってた。 ヤーさんの女だったとかいう噂も聞いた。 その部屋にはお風呂が無かったから、目の前の銭湯に行ったんだと思う。 Mさんは、服を脱いだら凄い女だった。 背中全土に行き渡る、すごい刺青が入っていたらしい。
最初は、たまに見る程度のMさんは、気さくな感じのオバちゃんだった。 オバちゃん書いてるけど、実際はオバちゃんじゃなかった可能性も高い。 でも、それまでの生活を物語るかのようにギスギスに痩せて、彼女はとっても老けて見えた。 ところがある日から。 Mさんは、工場の脇に座り込み、ブツブツ文句を言うようになった。 時には、ただの通行人に怒鳴ってみたり、あきらかに誰も居ない空間に向って怒ってた。 それは、少なくとも春先から夏にかけて続いてたと思う。
変な話かもしれないが、私はそういう事に免疫があった。 私などが産まれる前の時代には、今とは違う形でやさぐれた人がいっぱい居たんだと思う。 その中で、いわゆる「人間止めますか?それとも・・・」で心身共にいかれてしまったと言われる人を、小さい時に知っていた。 父上が面倒を見ていたその男性は、背中に観音様だか菩薩様だかの彫り物があり、キレると暴れる人だったらしいが、私にとっては優しいお兄ちゃんだった。 子供の身体よりも大きなロバの縫いぐるみをプレゼントしてくれたりした。 でも、ある時から、そのお兄ちゃんは居なくなった。 状態が悪化して、病院に入ったそうだ。 父上も心配して面会に行っていたりしたが、ご家族の方に「関わらないでくれ」と言われてしまったらしい。 父上は、時々思い出したように「どうしてるかなぁ」と言っていたのを覚えてる。 そんな父上だから、Mさんの動向を困りつつも、Dさんの所へ居させていたのだと思う。
そのお兄ちゃんと再会したのは、一昨年だったか、父上が亡くなった年だったと思う。 父上に付き添って、病院を歩いていた時だ。 レントゲン室の前で、ふと父上の足が止まり、小さなおじさんに声を掛けた。 それが、そのお兄ちゃんの年老いた姿だった。 父上よりも若く、体格の良い大きなお兄ちゃんだったその人は、すっかり縮んだように見え、同一人物とは思えなかった。 そのおじさんになったお兄ちゃんは、父上が声を掛けるとニコニコ笑った。 「あいつ、生きてたんだなぁ。俺の事、覚えてたんだ。」 父上が感慨深げに言っていた。 生死さえ分からなかったお兄ちゃんとの再会は、父上にとって嬉しいものだったのだと思う。 母上などは、「お父さんより元気じゃない」と驚いていた。 生きていたことを驚くほど、そのお兄ちゃんは危うい状態の人だったのだと思う。 現に、私の中でもお兄ちゃんはもう居ないんだろうなと漠然と思っていたし。
Mさんが、何時の間にどこへ居なくなったのかは知らないが、ある日から姿を見なくなった。 Mさんの状態が悪くなって、困ったDさんが追い出したとか聞いた気がする。 あんな状態の人が追い出されて、どうやって生きていけるんだろう? その後、何度か地元の商店街で、同じように座り込み、怒鳴っているMさんを見かけたと聞いた。 また、誰かにちゃんと世話してもらえていればいいけど。 そんな事を、他人事ながら心配した記憶がある。
Dさんは、その後、結構長く勤めていたが父上の工場を辞めた。 そして、今年に入って。どこからか父上が亡くなった事を聞いたらしく、母上の店に現れた。 以前は違い、結婚しお子さんも居て、ジョギングが趣味でしっかりしたお父さんになっているらしい。 母上は、Mさんのことを聞いたらしいが、「知らない」との事だった。
そう。 今朝、擦れ違ったその女性が、Mさんにソックリだったのだ。 ふっくらして、落ち着いた感じだったが、私が振り向くほどに似ていた。 Mさんは、元々マメで綺麗好きらしく、朝から掃除をしていた記憶がある。 だから、安定しさえすれば、いい奥さんになっていても不思議は無いのだ。
でも、その帰り道。 車を運転していると反対車線から覆面パトカーがやってくるのが見えた。 普通の乗用車に、例の赤いクルクル周って光るやつだけ乗っけた車。 刑事ドラマや、高速でしかお目にかかったことのない車だ。 なんか事件でもあったかなぁ?と思っていたら・・・
普通乗用車の後ろに赤いヘルメットのバイクが居た。
そう。見間違いだ。 左真後ろに居たバイクの、ちょこんと出てた赤いメットが、朝日に照らされてサイレンに見えたのさ。 だから、今朝のMさんも見間違いだったのかもしれない。
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