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2002年11月16日(土)

三回忌法要

父上が亡くなって早2年。っつーか、まだ2年。
なんで、亡くなった時には数え歳とかで年齢が一歳上になり、その後の法事は1年先に行うんだろう?
納得いかないが、そういう宗教なのだろうということで三回忌だった。

先日の義兄の一周忌の時から母上に頼まれていた通り、法事が始まる30分前には、母上の店に祖母を迎えに行った。
父上の母親になる婆ちゃんは今年94歳。長男夫婦と同居しているのだが、嫁と仲が異常に悪い。
非常にじゃなくて異常にだ。ここまで毛嫌いし合ってて、よく一緒の屋根の下に住めるもんだと感心する。
ついでに言えば、父上の兄弟はケチが多い。まぁ年金暮らしはキツイのだろうけど、殆どバスでやってくる。
お寺の場所は、バス停から歩いて年寄りだと15分以上かかってしまうだろう距離だ。
っつーか、もう杖をついてもヨロヨロの年寄りをバスに乗せてくるのはどうかと思うのだが。

今回の法事には、どうやらその不仲の嫁は遅れてくるらしく、叔父と祖母だけが先にバスできた。
この叔父夫婦の家には子供が居ない。小さい頃は正月になると年賀に連れて行かれお年玉をもらっていたのだが、何歳になろうとも一定金額。千円だった。
ついでに、叔母が怖くて食べ物を少しでもこぼすと大変だったので緊張した。
その叔父と私が話せるようになったのは、父上の葬儀の時からだ。
皆に頑固で威張っているので嫌われているが、私は案外素直な面をその時に発見し、結構可愛いと感じたので、それ以来遠慮無い言葉をぶつけることにしている。

店には、我姉妹2号も先にきていたので、車の大きさを考え2号の方に乗ってもらうことにした。
「おじさん、もう行くからさ、車乗ってよ」
と言うと、何を思ったか叔父に「お前はもぉ〜」とほっぺたをピシピシされた。
あれは、多分、愛情表現だったのだろうと解釈する。

寺についてしばらくすると、父上の妹である叔母がタクシーで独りで来た。
大体、この兄弟は仲が悪すぎる。皆して至近距離に住んでいるのにも関わらず、連絡すら取り合わない。
一緒にタクシーに乗ってきたら、お婆ちゃんを私たちが迎えに行く必要も無いし、皆も楽なのに。
そんな仲の悪すぎる兄弟の間で、父上だけが誰にも同じようになついて接していた。
長兄である叔父の嫁はクセがありすぎ、他の兄弟と話すらしないし、挨拶してもつっけんどな人だ。
でも、そんな嫁にさえ、「そっぷりは悪いけど、人は悪くない」と父上は言ってなついていた。

寺に全員が集まり、始まるまでの間お茶呑んでいるとき、我姉妹1号が私に言った。
「この間(義兄の一周忌)は有難うね。あんなに包まなくて良かったのに」

法事になると、幾ら包むべきかを母上と相談する。その時に、母上の立場もあるので私は金額を下に設定するのだ。
ついでに、私は最近貧乏だ。今週は2回も法事が重なる。給料日まで大分ある。
だから今回「あんなに」と言われる数のお札は入れてない。
「へ?一万円しか入れてないけど?」
そう答える私に、衝撃の事実が我姉妹1号から告げられた。

「あんた、2万くれたよ?」

私は、確実に財布の残りも確認して「1万円」しか入れたつもりはなく、何度も「それは2号では?」とか1号に念をおしたが、間違い無いらしい。
困惑していると我姉妹1号に「やだぁ〜」とお金に対するずぼらさを指摘された。
それは、言い返せないぞ。確かに私は、あちこちに数万円をぽんっと置いて後日見つけるような人間だ。
しかしだ。今回、私は2号にも金額の相談をしておいた。しかし、それが2号と同額となったら・・・
2号の立場は台無し。うん。仕方なかろう。そんなもんだ。少ないよりはいい。

今回、1号の子供は来なかったが、問題のその2号の子供たちは来ていた。
御焼香の時、まずお兄ちゃん(息子)が先に行ったのだが、その後を横あるきで戸惑いながら、妹(娘)が歩き出した。
大体、2号の子供は、いつも挙動不審な動きが多く、毎回ネタになる。
その娘の様子がまるで、人の家に侵入した泥棒のようであり、それを、3姉妹揃って目にし、一斉に笑いを堪えた。
目の前にはお坊さんがお経を唱えている。
3姉妹揃って肩を震わせ、私は隣の2号を肩でドンドン押しながら
「どろぼうじゃねーんだから、あの動きはなんとかしろっ」
と囁いた。

なんとも、のどかに寺での供養は済んだ。
御塔婆を母上が持って行ったのはいいのだが、お坊さんが慌ててる。

「あの、位牌を・・・」

見ると、お坊さんの手には父上の位牌があり、私は笑いながら母上に
「お父さん忘れていくなよ」と言いつつ受け取って外に出た。

そう言えば、義兄の一周忌の時、迎えに行った私に我姉妹1号が「それは神様だから」と念を押した袋があり。
しかし、寺についてみると位牌だけしか置かれない。聞くと
「神様は、仏壇から出しちゃいけないんだって」とへらへら答える。
どうやら、1号は出してきちゃいけない仏様像を持ってきてしまったらしい。
どこの喪主も、うっかり屋が多すぎる。

外に出て御墓にそれぞれお線香を供えることとなり、必要以上に沢山のお線香に火をつけたらしい。
その余った線香の束を持っていたのは、これまた挙動不審問題児の2号の息子であった。
殆どの親戚が終った後、急にその息子の手の線香が勢いよく火を噴出した。
1号は「欲張ってたくさん持ってるからだ」と言い、
私は「お前、おじいちゃんにからかわれてるんだよ」と笑い飛ばす中、
彼なりに一生懸命火を消そうとしているらしいのだが、なんせその動きが変すぎる。
どうやら、線香の火は吹いてはいけないことを知ってるらしく、手をぶんぶんふって消そうとするのだが、彼はひじを曲げないのだ。
まるで、踊りに腰が入らない稲垣吾郎系の動きだ。

一通りの法事事を済ませ、母上の店で食事となった。
毎回のことだが、必ず食事が余る。
余るぐらいに用意する必要は無いと母上に言うのに、何故か知人に頼んでまでお弁当のほかに料理を作るのが母上だ。
今回は弁当の他にロールキャベツと豚汁が用意してあり、そのロールキャベツを大きなバケツ型のタッパに入れ、2号が持って帰るらしい。

そのタッパは問題の品だった。蓋がゴミ箱と同じく上に被せるだけの仕組みだ。
案の定、2号はうっかりして、ロールキャベツをこぼした。
すると、それを目の前で座って見ていた息子に背後に、妹である娘が近寄りこしょこしょ申す。

「子供はね、親に似るんだってぇ〜」

うふふふっと笑いながら兄である息子の肩に手をかける娘。
誰にも聞かれてないだろうと思っているようだが、浅はかだ。私はバッチリ聞いていた。
っつーか、お前もうっかり2号の娘だぞ?
この2号は、子供の頃父上に「ぐずら」と呼ばれていた。昔からグズグズしてドン臭かったのだろう。
その血を色濃く受け継いだ息子は、もっとドン臭い。6歳も離れた妹にからかわれるぐらいに。
親切な叔母である私は、勿論、この娘発言を2号に伝えた。
娘は少々困った表情をしていたが、運良く怒られずに済んだようだ。
子供のくせに内緒話なんてするからさ。いい教訓になったということで。うん。
ついでに、自宅に戻ってから仕事をする私は、コンビニに寄るのが面倒なので、その娘が口をつけなかったファンタグレープをもらった。
小学3年生になった娘にとって、1号もかなり興味ある生き物らしいのだが、私の行動といい、叔母二人はどんな存在に見えるのだろうか?
たま〜に気になるが、まぁいいか。

その食事の最中に、兄弟喧嘩に似た険悪ムードが少々あったが、まぁそれはいい。
とりあえず、私は一緒に帰りたくない長兄夫婦に代わり、お婆ちゃんと次兄夫婦を送ることにした。
これがまた、叔父がここぞとばかりにしこたま飲んだおかげで、デロデロだ。
土曜日でしかも紅葉の季節ということで、観光地に住む家までは混んでいた。
叔父は何度も酔っ払いらしく同じ事をお婆ちゃんに繰返し言う。

「孫がさ、送ってくれるんだよ。こんなに嬉しいことは無いだろ?」

その言葉は、送り届けるまでに5回は聞いた。そして、お婆ちゃんはさすがに母親だ。
5回とも丁寧に「本当にありがたいねぇ」と静かに答え、さらに絡んでくる酔っ払いの息子の都合の悪いことに関しては、聞こえないフリをしていた。
さすがは、クセ者の息子4人と娘1人を育てあげただけのことはある。
その他に、既にお兄さんが一人。赤ん坊で亡くした父上のお姉さんが一人いるそうな。
計7人の子供を産んだ母親は強しというところだな。

お婆ちゃんは、しきりに「一人がいいぞ」と未婚の私に言う。
今の長男夫婦との生活が、よっぽど苦痛なのだろう。
「毎日遊んでるのも楽じゃないよ」と言うのも口癖らしくお迎えを待っている。
長兄も、昔は優しかったのに嫁のせいで冷たくなったと愚痴っているし。
でも、私は長兄の叔父は、立場上大変なだけで、母親に対する想いは変わってないと感じる。
叔父は「お婆ちゃんを頼むよ」と、こっそり私にお駄賃をくれたのだ。
それを、お婆ちゃんに教えてあげたかったけれど、後ろにいる次兄夫婦とは仲が悪すぎるので止めておいた。

っつーか。私にお駄賃を2千円渡せるぐらいなら、お婆ちゃんに渡してタクシーを呼んでやってくれ。
同じ血の繋がった親子・兄弟なのに、なんでこんなに複雑かなぁ・・・
結局、我が強い年寄りは厄介者になるのだなぁ・・とちと寂しく思った。

途中、泥酔した叔父がくしゃみを始めた。酔っ払い特有の症状だ。
それが、ものすごい汚い音で、どうやら鼻水も出していたらしく、お婆ちゃんがティッシュを差し出していた。
渋滞の中、大勢の観光客に向って「なんで、こんなに居やがるんだっ!」と怒り出すし、大変だった。
妻である叔母は、嫌だ嫌だと言い続け、
「アンタの母親を目の前にして言っちゃ〜悪いけど。バカじゃないの?」
としきりに怒っていた。
そんな時もお婆ちゃんは知らんフリを決め、私は叔父の鼻水で新車のシートが汚れないかと気にしつつも、笑いつづけていた。

とにもかくにも、三回忌法要は無事に終った。
母上は暢気に、父上の妹である叔母とその後に健康ランドに行ったようだが。
せめて、誰かを車があるんだから送ってく気持ちぐらいは持って欲しいものだ。
いつでも自分の都合最優先する母上だけど、父上が恥をかかない程度の親切心は持って欲しいといつも思う。
次は4年後。もっと、今より歩けない人が増えるかもしんないのだぞ?
ちょっとばかし、先が思いやられる気がした。

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