日々のあわ
あかり 



 円覚寺の桜と50年前の想い。

先月亡くなった祖父の納骨に行ってきました。
鎌倉の円覚寺です。

小春日和。
昨日からの暖かさで咲き出した桜の花、鳥の声、木と木の間を飛び回るリス。
古寺の風景と相まって「春爛漫」を体中で味わった一日でした。

この日に、父の兄(叔父)の50回忌もやりました。
父の兄は23歳で青函連絡船・洞爺丸の沈没事故(タイタニック号に続く世界第二の海難事故)でなくなりました。
盲学校の先生だったそうです。

今になって知ったのですが、亡くなった祖父が息子を事故で亡くしたときに本を自費出版していたのでした。
その本に初めて目を通した私はしばらく動けないくらいの衝撃というか、感動がありました。

事故の知らせをうけ、息子の身柄確認のために彼の婚約者と祖父母が北海道の海岸で何体もの亡骸を確認した時の様子を克明に綴ってある祖父の日記。

息子に宛てた祖母の手紙。最後に息子と交わした会話をこと細かに覚書された祖母のメモ。

そして、彼をとりまく何人もの友人や恩師や同僚、盲学校の生徒からの熱い言葉。
それらのもので構成された一冊の本。

重くて濃くて、でも温かくて優しい感じがするその本を、祖父がどんな思いで製本したか。

当時の婚約者だった女性が、祖父の死を知って一通の手紙を私の父宛てに送ってくれました。
私の父は彼女からしてみれば婚約者の弟ということになります。
手紙には、婚約者の身柄を確認したときに祖父の胸にすがって泣いたこと、「あなたはきっと幸せになってくださいね。」と
祖母に言われたこと、そんな思い出が書いてあったそうです。
そして、50年経った今でも一人でいて、変わらず叔父のことを思っていると。

半世紀経ってもうこの世には居ない人々の過去の想いと、今なお生き続ける人達の想いが、私の中に染み込んでくる。

灰になった祖父が、妻と息子の元へ納められてゆく様子を、桜の花の下で見届けて来ました。


2004年03月28日(日)
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