窓のそと(Diary by 久野那美)
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その島には、一年に一度、7日だけ咲く白い花がある。
花がいつ開くのか、ということは島の人々にとってとても重要な関心事で、 誰もが皆、その日をずっと前から楽しみに待っている 1年にたった1度のその時期には木の下に集まって、 おいしいものを食べ、美味しいお酒を飲み、仲間と語り合う。 7日間を花の下ですごすのだ。
予想より早かったり遅かったりしながらある日、白い花は静かに開く。 次から次からあふれてくる圧倒的な白に包まれて、世界は日常からふんわりと切り分けられる。
真っ白な公園や土手や道は他の日とは何もかもが違う。 花が散るまで、そんな日が続く。
けれど。
小さな花は、雨が降るとあっけなく散ってしまう。 その花がいつ散るかと云うことも重要な問題で、人々は寂しさと諦めをもって その日を迎える。 花が散ると人々も散っていく。まるで、最初から何もなかったかのように、 暦にはないけれど、この島ではいちばん重要な、一年の区切りなのだ。
花が散ると、白い花の木はあっという間に緑の葉に覆われる。 島を覆い尽くした白い花のことは、人々の記憶の中からすっかり消えてしまう。 次の年の同じ季節に白いつぼみが膨らむまで、誰も思い出さない。 幻の中で咲く花なのだ。
そんな花が、あるのだという。
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