窓のそと(Diary by 久野那美)
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雨の日の遊園地に行ったことがある。 高校生の時。 そのときなりの事情があって、平日の昼間にひとりで行った。
見事なくらい。誰もいなかった。 のに、門は開いていた。 入場券も売っていた。 ただ、ひとだけが居なかった。
券を買って中へ入った。 がらんとした早朝の公園のような遊園地。 景色はむらのない灰色で、雨の音に混じって、併設の動物園の檻の中からときどき甲高い鳴き声が聞こえてきた。足下はぬかるんで歩きにくかった。
いつもなら並んでいるはずのアトラクションには人の列どころか係員の陰さえなかった。 「こんにちは。」 と入り口をくぐると、あわてて中から飛び出してきて、私のために機会のスイッチを入れてくれた。何列もある乗り物に一人で乗った。 それまで経験したことのない不思議な感覚。 それがどういう種類のものなのかはさっぱりわからなかった。
「こんどは誰かと一緒においで。」 建物を出るとき、妖精館のおじさんが言った。 おじさんも、何かがさっぱりわからないでいるようだった。
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