書き散らし

2001年05月31日(木) テリトリー


 小さな子供に綱を持たせた犬が三叉路の電柱に小便をしている。犬がああやって角やら何か少しでも目立つ場所に小便を引っ掛けるのは自分の縄張りを主張する為だというのは有名な話だ。
その主張している相手は誰なのか。あの匂いの主張は同じ犬同士でしか通じないものか?
いや、ああやって自分の行為を何者かの前で披露するというのもそれを観るものに自分の権力を見せ付ける行為そのものなのだろう。
とするとあの犬はあの子供に対しても自分のテリトリーを認識させたいんじゃないだろうか?



【テリトリー】



「何だよ、しけたツラしてやがんな」
後ろから追いついてきたアスマが云った。

「オレにヤニ吹き掛けんでくれる?」
咥え煙草のアスマの吐く煙に手をパタパタ振って嫌がる仕草をする。
タバコの煙って、嫌いなんだよなぁ

「テメェだって吸う癖によ、ほんっと、身勝手だな」
アスマがぷうと明後日の方向に鼻息を漏らす。

視線を元に戻し三叉路を見やると子供と犬はもう歩き始めていた。躾が良いのか引っ張ることも、引っ張られることも無く歩いていく。
アスマからは煙草の香りがする。その匂いは甘いような煙草の良い香だった。煙とは違う匂いなのが不思議だ。

「オレは吸ってるときは煙草好きだけど吸ってないときは嫌いなの。」


アスマが勢いよく吐きだした煙が空中でもわもわとほどけていく。
ぼんやりとそれを眺める。

煙草の香りは好きだと思う。だけど一時楽しめればいい。身体に染み付くほど、動く度身体に纏わりついた匂いを感じるのは嫌なのだ。


は、とアスマが煙と溜息を吐き出した。ったく…とちいさく呟いてこちらをみる。

「そうだ、聞いたぜ?お前さ、いいかげん相手のことも考えてやれるようになったらどうよ?この前もお前のワガママで女が逃げちまったんだろ?」

「うっせえ。去る者は追わねェよ」

 セックスは気持ちいいなら好きだ。けれどそのときだけの快楽でいい。男でも女でもそれを足がかりに自分というものに踏み込まれるのは煩わしい。

「は、そぉですか。」

「それよっかお前の方が大変でしょー?オンナノコは大切にしてあげなきゃなんないんだったよねー?」

「気色悪ィ、止めろ」
アスマが部下のガキに手を焼いてるのを知ってから、この物真似はヤツの口封じに効き目がある。

「ったくよぉ、何処で聞きつけて来るんだよ…」

げっそりした様子でアスマがぼやく。
「センセー!こっち、こっち!」
例のガキが道の向こうで手を振る。アスマはおう、と手を上げこっちにしかめっ面して見せた。何も言うな。と眼が言う。

じゃな、と道を別れた。

 煙草にしろ、セックスにしろ、自分の部屋に持ち込む(なんだか変な言い方だが)ことはしない。したくない。俺の部屋は俺自身一人の為にある。

あいつはオンナも、誰でも。来る者を拒まない。
オレには理解し難い。でもそんなだから思春期のガキにやり込められる隙なんか出来たんだろ。

















「呑みに行きませんか」



夕日の眩しい報告書受付を出て目を瞬かせたところで声を掛けられた。何回かこちらから誘ったので今度は誘いを掛けて来たんだろう。


「珍しい。今上がりですか。じゃ、すぐ?」


彼が日の暮れる頃にもう仕事を上がるのは滅多に無いらしいのでそう返した。

「ええ。今日は仕事が切り良く終わったんです。明日は休みだしのんびり出来るな、と思いまして。」

そう言って彼が笑う。

「この前話した飲み屋、親父さんが戻ってきてやっと店が開いたんですよ。モツの煮込みとうどんが旨いんですよね〜。どうです?行きませんか?」

腹が減っちゃって。と頬を掻く。

「へえ、うどんですか。珍しい飲み屋ですね?」

「ねぇ〜、ラーメンが名物の飲み屋ってのもあるんですけどね」

「ラーメンは一楽で、ですか?」

「え、まぁ。カカシさんも行かれるんです?」

「いや。オレは行きませんけどナルトがラーメンなら一楽だって言うもんでね。」

「はぁ」

「あれ、アナタの贔屓でしょ?」

「えぇ。この頃は行ってなかったなぁ、と」

なんだか妙なカオをした。でもすぐに何でもないみたいな顔にした。笑ってない目で。

「俺、今うどんがすっごく食べたいんですよね。」











「すんません、こっち」

贔屓のうどん屋は中々だった。蕎麦好きの俺がもしこの店に蕎麦がメニューにあってもうどんを頼むな、というくらいに。
モツも旨い。酒も清酒の良いのを揃えていた。ずるずると食い、流し込むようにかぱかぱと杯を干していった。
腹がくちくなってきたいい頃合にイルカがちょっと河岸を変えましょうといってきた。

日がすっかり落ち、ひんやりした街中を歩く。ここそこに走る水路のせせらぎが耳に心地よい。彼に導かれるまま月明かりを歩く。

勘定は割り勘だ。俺が奢ったときもあったけどまぁ馬鹿高い店に無理やり付き合わせたんでなけりゃきっちり折半した。
(俺、気にしちまう性質なんで、割り勘にさせて下さいよ)
そう、彼が言うからだ。
(それに俺、割り勘負けしたことってないんすよねぇ〜)
にやり笑った。得意そうなその様子が妙に気に入った。
オレも滅多なことじゃ負けませんが、アナタになら負けたっていいかな。
そう思ったが云いやしない。
ややこしいことになる。もちろんその発言に他意は無いのだからして、言ったっていいがせっかく気分良く呑める仲でいて、水を差すのは上手くない。
きっとどういう意味ですか?としつこく聞いてくるに決ってる。
意味なんぞは無いのだから答えられなくてきっと押し問答になる。

ほらな、面倒だ。

「手を…」

なんてつらつら考えてたらイルカがこちらに向かって手を差し出していた。



意識がそちらに向かってなかったので呆けてしまいそれをじっと見た。

「あの、カカシさんなんかぼうっとしてたから…ここの踏み板、抜け易いんですよ…」

手を引っ込めイルカがぼそぼそ言う。


水路に渡された板はなんだかやわそうで確かにぼうっとしてたら間抜けなことになりそうだった。
オレがぼうっと手を見つめたのを気に障ったためだと思ったらしい。気まずい表情。

「はい。」

手を出す。
酔いが結構回りますねというとほっとした顔でオレの手をとった。

「酔うのはここの酒を呑んでからにしてくださいよ」

ぱあっと明るくなった顔で言った。
そうそう、そうでなきゃ。


















[半端です。続きます。仕事場の傍にうどん屋の飲み屋が出来まして小奇麗だし行ってみたいんですが未だに行けません]



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