華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2004年03月12日(金)

午前1時の情事。 〜テールランプ〜

<前号の続き>



瑶子はまだ潤んでいる瞳を俺に向けて、こう切り出した。


 「・・・しよう?」
「何を?」

 「いいよ、車の中で・・・平良なら何されても構わない」
「・・・ちょ、ちょっと」


瑶子は再び着込んだスカートの裾を引き上げ、生の太腿も露になるのも構わず、
その場で下着に手を掛け、脱ごうとした。
そういえばパンストは破った後、ホテルへ捨てて来た。


「だ、ダメだって。何やってるの?!」
 「いいの、滅茶苦茶に求められたいの・・・私じゃダメ?ダメなの?」

「そういう問題じゃなくて・・・」
 「嫌、私・・・ダメな女になりたくない!」


止まらない瑶子の行為に、俺は車をハザードを出して路肩に寄せて停めた。

頭上には名古屋都市高速が通る、都会の大動脈の真っ只中。
街中が染まる程の綺麗な夕焼け。
黄昏時のFMから流れてきたのは、ピアノの旋律が印象的な優しいバラード。

それでも下着を下ろさんとして半ば暴れる瑶子の手を掴み、俺は強引に唇を塞いだ。
殴るか、こうでもしない限り、彼女を制止できないと感じたからだ。

舌を絡ませながら、俺は掌で瑶子の髪を何度も撫で下ろした。
きちっと化粧し直した瑶子の頬に、温もりが一筋、二筋と伝わっていく。
しっかり塗り直したルージュも、俺の唇にたっぷりと移ってしまった。


「・・・大丈夫?落ち着いた?」
 「・・・平良・・・教えて。私って、どうしてこうダメな女なのかな・・・?」

「そんなに自分を責めないでよ。
 俺は瑶子の事、大好きだよ。
 自分を悪く言ってたら、俺の趣味も悪い事になっちゃうよ」
 「平良、悪趣味なんだから・・・こんなポンコツのオバサン、好きになるんだもん」

「俺は歳、恰好だけじゃ女に惚れないよ」
 「・・・もうね、自分に自信が無いの・・・もうこれ以上ダメになりたくない・・・」


瑶子はこの後、何を言っているのか、もう俺には聞き取れなかった。


瑶子がもがき苦しむのは、今の現状だけではない。
自分が歩んできた幾つもの「過去」とも戦っている。
時折、過去の自戒や今後の不安などが一気に脳裏によぎり、
言い様の無い不安に飲み込まれる。

きっと誰にもあることだが、彼女にとっての過去が支えきれないほど
重い『荷物』となっている。

こういう過去を一緒に支えていくべきなのが、きっと旦那であり家族なのだろう。

どんな人でも、何十年も生きていれば、関わり無い他人には理解出来ない、
重たい過去を幾つも抱える事だってあるだろう。

そんな相手の過去を受け止め、荷物を共に抱えて歩く事が
人生の伴侶となる者の務めではないだろうか。
共に支え合い、共に歩調を合わせて歩む事で分かち合える『情』が生まれる。


人間が生きていく、活きていく上でに一番大切なもの。
その荷物の重みを分かち合い、『情』を感じるパートナーの存在もその一つだと思う。


しかし、瑶子の「重い荷物」を一緒に抱えるのは、少なくともきっと俺ではない。


まだ半ば自暴気味の瑶子。
まず、落ち着きを取り戻させたい。


「瑶子はダメな女じゃない。よくやってるよ・・・娘だってちゃんと
 育てているじゃないか」
 「・・・」

「瑶子・・・これからはあなたがしっかりと新しい家庭を照らしていくんだ」
 「・・・私が?」

「そう、奥さんや母親が明るくて朗らかな家庭は絶対に上手くいくよ」
 「・・・」

「今まで何人もの女と出逢った俺が言うんだから、大丈夫!」
 「・・・」

「瑶子が何もかもが不安なのは、今まで話を聞いてきたから分かるよ・・・」
 「・・・怖いよ、怖い」

「でも不安やトラウマは、自分で乗り越えないとダメなんだから」
 「・・・」

「俺で良ければ、今後身体の関係が無くなっても付き合ってやるよ」
 「・・・嘘」

「ベッドで言ったじゃん。俺の事好きだって。俺も瑶子のこと、大好きだから。
 だから・・・他人には言えない関係だけど、これからも支えたい」
 「・・・平良」

「俺なんてさ・・・もう必要が無くなれば切り捨てればいいんだから・・・」
 「・・・」


瑶子は唇を噛み、無言だった。
何か言いたそうだったが、言葉を飲み込んだようだ。
俺もそれ以上追求しなかった。


「狭いけど、まず下着を上げよう。これじゃあ恥ずかしいよ」


太腿まで降りた下着を指摘する。
瑶子の頬がふと緩んだ。


再び車を出した数分後。
瑶子の新居の近くのガソリンスタンド。
その脇で車から降ろす。


 「平良、今日は本当にありがとう」
「ああ、中身の濃い一日だったね(笑)」

 「またメールするね・・・」
「俺もね。またね!」


帰宅前、ファミレスで食事をしようと立ち寄る。
車から降りる時、ふとバックミラーを覗いた。

瑶子のルージュが俺の唇にくっきりと残っていた。
慌ててティシュで拭い取るが、なかなか上手く取れない。

瑶子がまだ俺と離れたくないのかな・・・

そんな身勝手な妄想を企て、独りで笑ってみたりする。




それ以来、瑶子からの連絡は無かった。
こちらからは何度かメールを入れたが、返事が無かった。
連絡を絶たれた意図も理解できない。

不安な要素だらけだった新生活に、何か支障があったのかと心配だった。


バレンタインデーも近くなってきた2月中旬。
こちらから様子見がてら「またお茶でも飲もうか?」とメールを入れてみた。


 『 子供が塾に行く火曜日の夜なら、一時間くらいなら大丈夫だよ 』


それは久しぶりの返事だった。



指定された火曜日の夜。
待ち合わせに指定された名古屋市郊外の黄色い看板のファミレスに着いた。

店内を見ると、少し痩せた瑶子が喫煙席に座っていた。
煙草を燻らす彼女は、俺の姿を見つけてふと微笑む。


「久しぶりだね・・・痩せたな」
 「そうね・・・」


瑶子はお迎えの時間もあるので・・・と時間を区切っていた。
俺も無駄な時間にしたくない。


「時間が無いから、今日はホテルに行けないね(笑)」
 「・・・バカ(笑)」


こういう他愛も無い会話の時間もたまには新鮮だ。
お互い、様々な話をした。

瑶子の家庭での話。
俺も仕事でトラブルがあった時で、その悩みを話した。


ふと瑶子が時計に目を遣った。
お迎えに行く時間が迫っていた。

先程から伏目がちだった瑶子が、意を決したのか、顔を上げて切り出した。


 「・・・平良、実はね・・・」
「どうしたの、改まって」

 「私ね、もう自信がないんだ・・・」
「結婚生活?」

 「・・・そうじゃないの・・・それなりに、ね」
「じゃ、何が?」

 「はっきり言えば、平良との関係・・・かな」


いつか来るものと覚悟していたが、多少なりともショックだった。


「もう、俺の事は必要ない?」
 「そんなこと無い・・・でも、私も強くならなきゃね」


俺と瑶子は遊びの関係。
責任の持てない関係。
ならば、俺はその決意に従うしかない。


「もう会う事は無いかな?」
 「分からない・・・でも絶対ってのは無いから・・・」


店先で瑶子は俺に抱きついてきた。
俺も強く抱き寄せる。
しかし、今宵はここまで。

その後、黄色い軽四で娘のお迎えに出て行った。
駐車場から見送る俺。

数え切れない程の赤い灯りに、紛れて消えて行った瑶子の車。
俺はそのテールライトを、柄にも無く見つめていた。









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次の日。
仕事が終わった後、昨夜のお礼がてら瑶子に短いメールを送った。

すぐに返信されて来た。
それは瑶子からではなく、メールサーバーからだった。


 『指定されたメールアドレスは実在しません』


俺は慌てて瑶子の携帯に電話を掛けてみる。


 『お掛けになった電話番号は、現在使われておりません』


唯一の連絡手段だった携帯電話は、もう解約されていた。

彼女の告白は単なる迷いではなく「絶対」の覚悟だと知った。


一応新居の住所も聞いていたが、こういう形で決意を見せられては、
こちらからこれ以上追いかける訳には行かない。

俺は自分の携帯のメモリから、瑶子の番号とアドレスを呼び出した。
メニューボタンから、俺は消去を選んで押す。


 『No.273を消去しますか?』


画面に表れた決定ボタン。
躊躇しつつも、思い切って右手の親指で押す。


その瞬間、俺の手元から瑶子の存在は完全に消えた。


なかなか取れなかった先日のルージュ。
いとも簡単に消え去った携帯の番号。


もう二度と会う事の無い女。
こんな唐突な終わり方も、俺はもう慣れた。


瑶子はこれから本当に強くなれるのか。
または、新たな他の男に依存するのか。


彼女への心配の種は尽きない。
しかし、それはもう俺が知る由もないこと。


会社の駐車場から出た帰り道。
掛けっ放しのFMから、あの優しいバラードが流れてきた。
ほんの10分ほどの短い時間なのに、何たる偶然か・・・
俺の携帯から消えた、あの女の思い出が次々と脳裏によぎる。


「いい女だったなぁ・・・
 こんな事なら、最後にあのまま車の中で最後までいけばよかったなぁ・・・」


誰も聞いてない車内で、そんな強がりを吐いてみた。

人の記憶とは、どうやら携帯のメモリのように便利に整理できないものらしい。
故に、過去に苦しむのかも知れない。
瑶子も、俺も。





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   今後とも「華のエレヂィ。」を宜しくお願いします。



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