華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2003年01月08日(水) 年下の男の子。 〜早春〜 |
随分と暖かくなった春の日差しに、街全体がふんわりと照らされる。 早春のある遅い朝。 俺が大学を卒業した直後の頃だった。 生意気にも夜遊びを覚え、不健康な日々を過ごしていた当時の俺。 その朝も夜遊び帰りで帰宅した。 2階の自室に上がる前に、階段の下に設置された集合ポストを覗いてみる。 そこにはダイレクトメールや電気やガスの請求書に紛れて、 丁寧な字で宛先が書かれた私信らしき封筒が投函されていた。 その手紙だけを取り出してみる。 明らかに女性の筆跡。 テレコミで知り合った主婦・真知子(仮名)からだった。 彼女からはこれで三通目の手紙である。 最初の手紙はほぼ半年前の秋に届いた。 二通目の手紙はプレゼントと共に手渡されたクリスマスカード。 最初の手紙には丁寧な文字で綴られた手紙と写真が同封されてあった。 柔らかく微笑む彼女、そしてベビーカーに座りきょとんとした表情の娘。 微笑ましいかぎりの母子のツーショットだった。 真知子は当時32歳。 バツイチになったばかりだった。 一緒に写っていた娘は前夫との子で、離婚後に真知子が引き取っていた。 離婚後、彼女は実家に身を寄せていた。 母親と共に病気で弱った父親の介護をしながら、自身もパート務め。 そして愛娘の子育て。 寝る間も取れないほどの苦しい状況、それでも頑張る彼女。 誰もが逃げ出したい程の辛い境遇でも、彼女は朗らかだった。 母となった女性が持つ『芯の強さ』を垣間見る。 その真知子と俺との出逢いはテレコミだった。 彼女がその店を辞めた後も、俺達は友人としてプライベートで話していた。 そして逢った事もあった。 男と女、互いの立場を超えた関係と言ってもいい。 そう思うと、俺と真知子は随分と関わりの深い関係だった。 飲み続けたアルコール、そして踊り明かしたクラブでの疲れを残した身体を 引きずるようにして階段を上がる。 鍵をあけて部屋に入り、カバンを置き、上着を脱いで投げ捨てる。 芯に鈍痛を感じる頭。 台所で蛇口を捻り、コップ一杯の水を一気に飲み干した。 口から胃へ、冷たい一筋の塊が降りていく。 狭くて冷え切った六畳一間の部屋。 手に持つ封筒を開けるべく、おぼろげな記憶を頼りに、 散らかった机の上をさらにかき分けてペーパーナイフを探す。 見つけたナイフを手に取るが、俺は封を開けるのを躊躇ってしまった。 中に何が書いてあるか、今までの彼女との会話の流れで想像出来たからだ。 読んでしまうと、まだ切ない妄想で済んでいる事が現実になってしまう・・・ はっきりしない頭脳で考える事は、そんな事ばかりだった。 俺が初めて真知子とテレコミで話したのは、まだ昨年の夏だった。 クーラーや扇風機、冷たい麦茶が不可欠な部屋。 Tシャツに短パンで寝転がりながら談笑していた。 「やっぱり娘の成長は待ってくれないから・・・今から稼がないとね」 「女一人で頑張ってるんだねぇ・・・母は強いね(笑)」 「私が結婚生活を耐えられれば良かったんだけど・・・ダメだったな」 養育費を稼ぐためにテレコミのバイトに入って間もない真知子。 その数ヶ月前に離婚していた。 「ま、私はせいせいしているんだけどねーっ(笑)」 真知子の離婚の直接原因は、3歳年下だった夫の暴力だという。 元来、金にだらしなかった夫。 苦しい家計を支えるために真知子がパートなどで稼いでいた金を度々無心し、 遠慮なくパチンコや風俗へとつぎ込む。 そしてその放蕩を咎める真知子を、夫は腕力で黙らせた。 理不尽な暴力も、円満な家庭を守るために黙って耐えるしかなかった。 本人曰く、貧しくても温かい家庭に憧れていた。 そして、信じて一緒になった夫を支えてあげたかった、と。 「私だけなら良かったんだけど・・・娘にも手を上げだしたの」 夫婦の騒動の傍ら、夫は夜泣きする娘にもまた苛立ち折檻しようとした。 彼女は身体を張って彼の暴力を受け止めるしか、娘を守る術は無かった。 「典型的な内弁慶で、外での苛立ちを家庭に持ち込む人だったな・・・」 縁を切った夫をそう振り返る。 それにしても情けない男だ。 「付き合っているときはまだ良かった。でも結婚してから変わったわ」 「しかしそこまで情けない男もいるもんだねぇ・・・」 夫からの度重なる暴力で生傷が絶えなかった真知子。 それでも自分だけが耐えれば、いつかは報われると信じていた。 しかし娘に夫の矛先が及んだ事で、彼女は最後の決断をした。 彼女は身の回りの荷物をまとめ、娘の手を引いて家を出たのだ。 夫は夜逃げ同然に家を出た嫁を追いかけ、今も実家に押しかけるという。 一度は離婚を認めたものの、寂しさからか復縁を迫ってくるらしい。 「反省したから帰って来い、俺と一緒にやり直そう・・・って言うの」 しかし男はどうにも反省した様子は微塵もない。 定職にも就かず、自分の親から金を無心し続ける生活を続けているという。 男が押しかける度に彼女の年老いた両親が、娘は居ないと追い返す。 当然の結論だ。 親の世話、娘の子育て、そしてパート。 そんな真知子は、新しい男性との出会いを考える余裕は無いと言い切る。 「このバイトも、生活費を稼ぐためなんだ(笑)」 「うん・・・だから出会いを求めているわけじゃないよ」 「そっかぁ、残念(笑)」 「(笑)ゴメンね」 「でもそんな男がいたら、誰でも男性不審になるわな」 しかし二回目の電話の時、実はもう一つ理由がある事を明かしてくれた。 そんな彼女を慕って、付き合ってくれと言い寄ってくる男がいるという。 その彼の名は、泰之。 パート先でバイトとして働く彼は、広島から名古屋の大学に来た学生。 現在は市内の学生専用マンションで独り暮らししているそうだ。 「優しくておっとりとした感じの男の子なの。私の過去も理解してくれてるし」 「へぇ、男の子って・・・何歳なの?」 「大学生で私より一回りは年下だから・・・すごい若いよね(笑)」 「一回りって・・・うわっ、俺よりも年下じゃん!」 真知子はその泰之との交際について迷っていた。 一回り以上に及ぶ大きい年齢差。 そして自分がバツイチになったばかりの後ろめたさ。 若さと情熱で体当たりに交際を迫ってくる若者に、人知れず戸惑っていた。 「実は俺もね、初体験の相手は一回り年上だったよ(笑)」 「え、本当?どんな感じだった?嫌だった?」 「嫌な訳が無いじゃん。裸になって抱き合えば一人の女性だよ」 「えぇ、でも・・・子どもも産んでるし、若くないから」 「大丈夫。男は年上の女性には、そんな見た目ばかりを求めていないよ」 「だって・・・彼は若いし、こんな年増を相手にする事無いよね」 「だからぁ、男から見れば小さい事なんだって(笑)」 そういえば・・・俺が初めて女を知った、俺より一回り年上の女だった美紀子も きっとこの人と同じような気持ちだったのかな・・・ ふとそんな事を思い出しつつ、真知子を励まし続けた。 『 美紀子とのエレヂィ。〜一生に一度の夜 』 俺の経験談を聞いた彼女はどこか安心したのか、 それからはあまり余計な心配をしなくなった様子だった。 男にとって、年上の女との年齢差や彼女の過去は大して関係ない。 そこから生まれるおかしな憶測や女性の劣等感などの方が問題なのだ。 <以下次号> |
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