華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年10月27日(日) 東京美人物語。 〜母への贖罪〜 |
<前号より続く> 終わりのシャワーを浴びる時、名残惜しい俺は改めて聞いてみた。 「本当に辞めるんだ・・・」 「うん、多分ね・・・まだ店の人には内緒にしててね・・・」 「ねぇ、教えてよ。なぜ辞めるか」 先程、内緒だと言われた質問を再びぶつけてみた。 「・・・東京へ、帰るの」 割り切ったような口調で、そう独り言のように呟く。 両親に交際を反対されて飛び出した実家。 そこへ帰りたい、いや帰るのだという。 その両親の心配通り、男に騙され全てを失った以上に借金まで背負った彼女。 本当なら親に見せる顔もないはずだ。 しかし肉親の中で唯一ヤスコの考えを理解してくれた妹が教えてくれた。 誰よりも彼女を心配し、最も強く交際に反対した母親。 その母が病に倒れ、床に伏せている事実を。 「そんなに高齢じゃないんだけど、いろいろ心配掛けたからね・・・」 母はヤスコ、いや本名の彼女が名古屋に住んでいる事を知らない。 男に騙され借金に追われている事も、返済のために風俗で働く事も知らない。 男も借金も、全て自分の責任だから・・・と、 文字通り全てを背負い、責任を果たそうと人知れず辛い思いをした彼女。 大きい存在だからこそ、言われる事に筋が通っていたからこそ、 その母にあくまで反発し通したヤスコ。 同じ女だからこそ、惚れた男に弱くなる女の気持ちが分かるからこそ・・・ いい加減な男との交際を強く反対した。 まだ未熟だった彼女のために。 苦労を、心配をかけた母。 そして今、病床に伏せる母。 そんな自分に出来る母への最大の贖罪、そして孝行とは何なのか。 独りで考え、模索した結果・・・ それは自分が東京へ帰る事だった。 自分から失敗を認め、頭を下げる気持ちにはなれない。 そして意地を張り続けたい気持ちもある。 しかしその全てをかなぐり捨てても実家へ帰り、病床の母を元気付けたい。 今までの親不孝を謝り、過去を清算したいのだ。 男の残した借金はまだ若干残っているものの、 その身体と引き換えの高給のお陰で、今では大部分が返済できたそうだ。 しかし店側は美人で仕事熱心のヤスコをさらに売り出そうと企んでいる。 早く借金を返済しようと頑張ったのが仇になった。 実家の事情とはいえ、そう簡単に辞める事を認めてくれるはずがない。 店側は彼女の売り出しに、相当の宣伝費を使ったのだから。 「だから、店にはすべて事後報告にしようと・・・」 「そうかぁ」 「分かんないよ、家族に許してもらえるかどうかも」 「・・・」 「だから・・・一度帰って様子を見て、ダメだったら黙って復帰するわ」 「そうかぁ、客としては複雑だなぁ(笑)」 「私ね、この街好きだからね。もう地元よりも詳しいんだよ(笑)・・・ 本当にもうね、名古屋は第二の故郷だよ・・・私にとって」 冷徹なニヒリストは、誰よりも母を心配する孝行娘の予備軍だった。 最初の雰囲気からは予想もつかない話題の展開になったものだ。 「ヤスコさんが帰ってこないほうが、上手く行ってるって事だね」 「うん・・・まだお金も足りないから、向こうでも(風俗で)働くつもり」 「俺も東京出張したら、店に遊びに行こうかなぁ?(笑)」 「本当?じゃお店を探して来てね(笑)」 「ちぇっ、これで連絡先を聞き出そうと思ったのに(笑)」 「残念でしたっ!」 ヤスコは最初のニヒルな表情をすっかり崩し、打ち解けてくれたようだ。 店一番の美人も、笑えばごく普通の女の子だった。 笑顔が朗らかで可愛い。 彼女の性格の良さを物語る表情だと思う。 ニヒルな第一印象を全てひっくり返して、なお余りある彼女の魅力を感じた。 俺も安心して笑った。 「じゃ、本当にありがとう・・・色々あるみたいだけど頑張ってね」 「うん、ありがとう・・・また逢えるといいね」 「近いうちに来れる様に、努力するよ」 ヤスコと店員に見送られ、俺は店を出た。 駐車場へ向うため錦三方面に歩いていくと、突然乱暴に左腕を引っ張られる。 見ると小柄な中年の女が俺の袖を掴んでいた。 「オニイサン、マッサージシナイ?オチンチンサワリアリデ、ゴセンエン」 呼び込みは客の身体に触ってはならないのだが、平気で掴んで離さない。 片言の日本語から見て、彼女は韓国か中国系のようだ。 性欲を果たしてきた俺にはもはやどんな誘惑も通じない。 俺は力ずくで左腕を振り払った。 何やら強い語調で罵っているような言葉が聞こえる。 俺には何を言っているか分からない。 夜の錦三は外国人勢力の進出で、以前よりも物騒な街になりつつある。 赤色灯を焚いたパトカーが至る所で駐車し、街を見張っていた。 帰宅後、実は置き場所に困っていたヤスコが破廉恥な格好で写っている写真を、 引き出しの下に潜り込ませておいた。 俺は2週間後、ヤスコの予約を入れるために店に連絡した。 「申し訳ございません、本日はもう全て予約で埋まっております」 「そうですかぁ・・・何時くらいに予約を入れればいいですかね?」 「ヤスコちゃんくらいになると・・・予約開始から5分で埋まりますね」 店の開店時間は朝10時。 その5分後には、ヤスコの予約は埋まってしまうという。 それも本日分しか予約は受け付けないという。 「本日は他にたくさんの可愛い娘がいますよ、どうされますか?」 「・・・今日は結構です」 やはり売れっ子。 予約もそう簡単に取れそうにない。 前回が奇跡だったのだ。 それからも何回か店に予約を取るために電話した。 しかしすでに予約で埋まっていたり、欠勤だったりと不幸が続き、 ヤスコの予約は取れないでいた。 そのうちに雑誌の広告から、ヤスコの顔写真が店から消えた。 「うちも困ってるんですよぉ、いきなり辞めましてね・・・」 他の常連客からも相当クレームが来ているのだろう。 電話番はいかにも困ったような口調で、愚痴りながら詫びてくる。 俺は愚痴を聞き流しながらも内心、安心した。 ヤスコとはもう逢えないが、本名の彼女は実家に帰ることが出来たようだ。 |
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