華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年10月14日(月) 18歳。 『熱帯夜』 |
<前号より続く> こんな記憶は無いだろうか。 子どもの頃。 恥ずかしさで親にしがみ付いて陰に隠れたり、不安から繋いだ掌を力強く握った事を。 子どもが強い心配や不安を抱いた時などに、よく無意識にとる行動だ。 愛撫に合わせるかのように高まる声と共に、 ユキエは掴んだ俺の左手を、そんな子どものように痛いほど強く握り返す。 見知らぬ男が自分の一番大切な女性の部分を弄っていることへの抵抗か、 自分の意志に関わらず襲い来る快楽に自分を見失いそうになる不安なのか。 しかしこれだけは確かだろう。 彼女は俺の行為を喜んで受けているのではない。 俺は相手がどういう女であろうと、愛撫で感じてほしい。 ユキエの反応は痛々しささえ感じる。 俺は急に気分が変わり、泣きじゃくるユキエの中から指を抜いた。 派手な粘着音を立てていたユキエ自身から抜いた指は、白くふやけていた。 指先からは緩い粘液が細い糸を引いていた。 俺はユキエの傍らに横になると、泣き止んだ彼女を先程よりも強く抱いた。 そして先程までは身を固めるだけだったユキエは、 今度は俺の身体を強く抱き締め返してきた。 頬を桃色に染め、まだ余韻からか息が荒い。 俺は何も語り掛けず、ただユキエを抱き締める。 ユキエも俺に抱き付き、熟れ切れない身体を力一杯押し付けてきた。 そのまま何分間いただろう。 そんな抱擁の最中、ユキエはこんな言葉を口にした。 「私ね、オジサン好き・・・」 俺の掌を血色が無くなるほど強く握った彼女。 まだまだ未熟な彼女は、独りで不安定な生活を強いられる事にやはり不安を感じていた。 そんな時だから・・・強くて大きな存在の男性を求めていたのだろう。 両手を広げて、笑顔で力強く励ましてくれる様な、大きな存在を。 独りにしたくないからと母親を思いやり、一緒にいることを選んだ彼女。 しかし本音では父親に体当たりで甘えたかった。 娘なら当然の欲求ではないか。 相手が父親なら、肉体関係を求める事は無かろう。 しかし他の男に求められないような、無垢なスキンシップを求めている。 例え単純なおんぶに抱っこでも、肉体の体温と感触が何より子どもを安心させるのだ。 人の気持ちや意思を感じ取るのは、何も相手の言葉だけではない。 肌の温もりは、時として何よりも雄弁なはずだ。 自分だけの快楽を最優先する、若い男どもの粗暴な性欲処理の行為には、 ユキエが本当に求める温もりは存在しない。 彼女が好きだといった「オジサン」。 今まで望んでも手が届かなった父性を求めていたのだろう。 しかし相手は「父親」ではなく、「男」。 そして彼女はユキエという源氏名を名乗る「風俗嬢」。 そこに存在するのは、あくまでサービスだ。 高額な利用料と引き換えの、性欲処理の作業。 そんな客相手でも、彼女は身を委ねる事で求める父性を代償しているのだろうか。 年々離婚率が上昇し、父子・母子家庭が増加している。 その離別ごとに、不安と寂しさに晒される子どもが増加する。 夫婦など、元は生まれも育ちも違う男と女。 自分たちの理由で勝手に別れる事もできる。 しかしその夫婦の子どもにとっては、両親の離婚は最大の悲劇となる。 どんなに納得できる理由があろうとも、 離婚の最大の犠牲者はその夫婦の間に授かった子どもなのだ。 そんな世知辛い世の中に増え続ける犠牲者の一人が、目の前にいる裸の彼女だ。 考えてみれば、18歳はまだ反抗期を過ぎてから間がない年齢。 外見や言い分がどんなに大人びていても、中身は大人とは言い切れない。 まだまだ心身とも大人の支えが必要だ。 この世の中にたった一人ずつしかいない、父と母が傷付け合って分解した。 彼女の直面した現実。 そんな少女の抱えた傷の痛みなど、他の誰にも分からない。 それが例え血を分けた親でさえだ。 子どもの事を二の次にして、自分達の都合だけでいがみ合う親など、 他人よりも遠くに感じるはずだろう。 俺とユキエは強く抱き締め合ったまま、買った時間の終わりを迎えた。 先程の携帯電話が鳴り、時間の終了を告げられたのだ。 「どうしよう、お兄さんイッてないもんね」 「そうだなぁ・・・」 延長も考えたが、その店は30分で1万円と高額だ。 財政と欲望の間で散々迷ったが、結局諦めるしかなかった。 ユキエには口や手で男を満足させられる腕はない、という。 チップと引き換えに身体を差し出す娘にその様なテクニックは必要ないだろう。 「今度遊ぶ時に、本番すればいいじゃん」 シャワーを浴びようと立ち上がったユキエはあっけらかんと言い放った。 しかし今日のユキエを知ってしまうと、簡単に本番を迫れるような気持ちにはなない。 「今度はまずカラオケだって、歌ってもらわなきゃ」 「・・・・そっかぁ、そうだったね!」 一瞬の戸惑いの後、ユキエは俺に初めて爽快な笑顔を見せた。 |
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