華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年09月23日(月)

二次元ronde。 『後日談』


<前号より続く>



サツキはそれ以降も変わらず俺と付き合いを続けた。
しかし残念ながら、肉体関係の方はそれ以来無い。

 「もう封印したの。やっぱり旦那が一番だと分かったから」


サツキは目を合わせずにそんな事を言う。
やはりそういう建前だったようだ。

後日、家に遊びに来た時、一度だけ悪戯で胸を意味ありげに揉みしだいてみた。


「あの時の事、思い出す?」
 「・・・ダメ、止めたのぉ、もうヤバイって・・・」


俺は非情になりきれず、手を離した。
サツキの自分で決めた事を邪魔してはいけない、と感じたから。


「ゴメンな、怒った?」
 「・・・もう旦那以外とはしないって決めたから」


はだけた着衣を戻しながら、サツキは俺に言った。

きっとどこかで旦那への忠誠心と愛情が揺らぐ事を自分で分かったからだと思う。




それからおよそ2ヵ月後。
もうすぐ冬になる秋の夕暮れ。

サツキは当分会えなくなるから、と俺に貸してくれた漫画本を取りに来た。
玄関先に立つサツキは、充分過ぎるほどの厚着だ。

改まった態度に俺はどうしたの、と聞いた。


 「あのね、二人目が出来たの」

ちょっぴり肉付きの良くなった頬を緩めて、サツキは嬉しそうに微笑む。
その時、胎内に第二子を身篭っていたのだ。


「良かったな!・・・でも、俺の子?」
 「・・・バカ言わないで!間違いなく旦那の子よっ」


あの時・・・そういえば俺はスキン付きだった上、イッていなかった。
サツキも俺が果たせなかった事を見ていたはず。

きつめのジョークで彼女の幸せを称えた。


もうサツキとも会う事は無いかな、でもこれで良いんだ・・・

借りていた漫画を返した後、ガランとした本棚の一角を眺めながら、
俺は自分の中の寂しさを切り捨てる決意をした。




それからしばらく経った日の真夜中、電話が鳴る。


サツキだった。
何事かと思っていたら、声を殺して受話器の向こうで泣いていた。


「どうした?こんな時間に・・・」
 「あのね・・・・流れちゃったの、赤ちゃん」


第二子は不正出血の末、流産したという。
サツキはその処置が終わった後、病院から自宅に戻った夜に電話してきたのだ。


俺も慰めの言葉も出ない。

彼女の悲しみの深さは、痛いほど俺にも伝わった。
サツキは声を殺しきれず、嗚咽を漏らしながらもなお泣き続ける。


「残念だったけど・・・でも赤ちゃんは君を責めないよ。
 ・・・サツキには非は無いんだから。あまり落ち込んでると娘さんまで悲しむよ」


あくまでサツキの家庭での話なので、俺が口を出すのは筋違いだと思った。
しかし過去にどういう関係があれど、俺にとってサツキはもう大事な友達だ。


その癒し切れない悲しい事実を、友人としての俺に訴えている。
彼女から逃げるわけにはいかない。


たった一言、これだけ言うのが精一杯だった。



その後日、喫茶店で会った時。
小柄なサツキがいつも以上に小さく見えた。

オーダーした熱い紅茶が冷めてもなお、傷心の自分をさらに責め続けていた。
俺は黙って頷くだけだった。




こういう出逢い方をする女性とは短い付き合いが多い俺にしては珍しく、
サツキとは長く関わりがあった。


付き合っている人のいない俺に、彼女の友達を紹介してくれたりもした。

俺が軽い疾患で入院した際、その準備を手伝ってくれたりもしてくれた。
独身で彼女もいない俺が最も困るのが、こういった病気の時だ。

周囲に誰も頼れる人がいない。
仕事仲間にもあまり言いたくない。大袈裟にしたくない。


入院の準備は平日の午前中。
旦那の出勤後、娘を親に預けてまで俺の元へ駆けつけてくれた。

そしてバッグに詰めた重い入院道具と俺を郊外の病院まで運んでくれた。



病室での俺とサツキを見た看護婦さんから言われた。


 「平良さん、可愛い彼女ね」


サツキは戸惑いと照れの混ざった、何とも言えない複雑な表情を浮かべていた。


「不倫ですか?って言われるよりマシだろー?」
 「・・・私、そんなに若く見えたのかな?」

「相変わらず見た目がガキっぽいからじゃない?」
 「バカ、一生入院してなさい!」


そんなことを言いながら、彼女は俺に本の差し入れを持って来てくれる。
漫画本、それも少女コミックだったが。


 「読んでみてよ、面白いから」
「少女漫画ってコマが小さいし、話もややこしいから読み辛いんだよなぁ」

 「読まず嫌いしないの、置いて行くからね」
「読まず嫌いって・・・セロリやブロッコリーを食わず嫌いする君に言われたくないね」

 「いいの、ブロッコリー食べられなくても生きていけるから」
「じゃ漫画は?」

 「私には無くちゃ生きていけないものなのっ」
「それは屁理屈と言うものでしょう・・・」



退院の日まで大部屋の一角で繰り広げられる小声の舌戦。
きっと同じ部屋の人たちには迷惑を掛けただろう。




いい形で付き合える関係にあったサツキ。

退院真近のある午後、ベッドで点滴を受けていた。
俺は暇に任せて、病室の白い天井にサツキとの様々な出来事をぼんやりと思い描いていた。

伝言のカード、初めて会った喫茶店、深夜の電話、一度だけのSex・・・

あんな伝言ダイアルでもこんな出逢いがあるもんだな・・・・と。


あの瞬間、伝言を吹き込むのを躊躇った指先が別のボタンを押していたら、
もう無かった出逢いだったのだから。




    あなたは愛するパートナーに 大切な家族に「感謝」をしていますか?
    そして変わらぬ「愛情」を注いでいますか?

    それも『 相手に自分の気持ちが伝わる行動 』で


    黙っていても相手は分かっている・・・
    そんな古い考え方が未だにはびこる 今日この頃です

    しかし自分で考えるほど 気持ちも愛情も伝わっていないものです

    それも 夫婦 家族 恋人 と近い関係になるほど
    「ありがとう」「愛してるよ」という気持ちを態度に示す事が
    億劫になるものです
    
  
    普段からの言葉や態度で 相手への感謝や愛情を表すこと
    その大切さを知ること

    出逢いという偶然を 絆という必然に育てるのでしょう
    きっと小さな誤解や些細な勘違いも互いに笑って水に流せる事でしょう




そういえば・・・
サツキからは2年半前に無事男の子を出産したという報告を貰って以降、
一切の連絡が途絶えている。


あの流産の悲劇を乗り越えて授かった男の子だ。
そろそろ男の子なら、ヤンチャ盛りでエネルギーの有り余る時期だ。

きっとこの今も子育てで奮闘しているに違いない。



連絡の一つも取りたい所だが、もうポケベルは解約している。
携帯電話の番号も知ってはいるが、何ゆえサツキには家庭があるので、
俺から連絡を取る事も出来ない。


彼女独自のパソコンも持っているそうだが、アドレスが分からない。
携帯電話のメールアドレスも分からない。


 「新しい漫画の本貸そうか?」


いつかサツキからそんな連絡が来るのを、俺は信じてのんびりと待つ事にしている。








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