華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
PROFILE & GUEST BOOK | ||
本文が読みづらい場合、 Windowを最大にして お楽しみください。 +お知らせ+ 表紙にミニ伝言版開設!ご覧下さい。 |
-past- | +elegy INDEX+ | -will- |
2002年09月10日(火) 仰げば尊し。 『恩師との再会』 |
<前号より続く> ノリカは、湯の出るシャワー口を股で挟み、中央の割れた俗称「スケベ椅子」に座る 俺の身体を、前面から手馴れた様子で俺の身体を洗い流す。 「お客さん、いい身体しているね」 「そう?デブなだけだって」 「私、そういう男の人好きだな。だって私がデカイでしょ?」 「そうだね。男を見下ろすくらいだから(笑)」 「だから飛び込んでも抱きとめてくれるような人が理想」 「そうかぁ、いつでも飛び込んでおいでよ」 「いいの?でも私、すごくお金掛かるわよぉ(笑)」 「じゃあ、まずは貯金から始めないといけないね」 朗らかな会話で心をほぐしつつシャワーを終え、身体をバスタオルで拭き、 空調の利いた部屋で待つ。 「お客さんの仕事、当ててみよっか?」 後片付けを終えたノリカは俺の隣りに座り、断りを入れて煙草を吸いつつ、 そんなことを言ってくる。 「いいよ、当ててみな?」 「あのねぇ、学校の先生!」 突飛な答えに思わず吹き出した。 俺は拙い営業職だ。 「先生?」 「そう!それも体育でしょ?」 「なんでそう思うの?」 「だってぇ、直感!・・・と言いたいけど、第一印象でね」 「第一印象?」 「真面目そうだし、良い身体してるし・・・でね」 次の言葉が一番特徴的だった。 「シャワーに入る時『失礼します』って言ったでしょ?」 「そうだっけ?」 「だってね、先生たちって妙に礼儀正しくて。それも体育の先生」 「何で知ってるの?」 「そうやって挨拶して入ってくる人に仕事を聞くと、大抵が先生だっていうの」 こういう店に来る教師だって人間であり、男だ。 自分の給料や小遣いで遊ぶ分には何も咎められる事はない。 よく聞く話がある。 水商売や風俗で働く女性に対して、サービスの域を越えた無理な要求 (本番・変態行為をせがむ、個人的に会う事など)を強要してくる人の職業に、 教師や警察官などの公務員が多いという。 日頃から品行方正さを求められる、厳しい仕事だ。 不平不満の多い仕事柄やストレスが、そういった甘えとなって出てしまうのだろう。 「でね・・・この前さ」 その店になぜか岐阜県の教師達が数人、団体で遊びに来たという。 「組合の飲み会の流れで、どうしても断り切れなくて・・・って言ってた(笑)」 ここの店は岐阜県からの教師の客が多いそうだ。 こういう形で流れて遊びに来るのは珍しくないという。 「そこでついた人が、たまたま私の中学の時の生徒指導の先生だったの!」 「本当?!」 強面で接していた教え子と鉢合わせ。 教師としても、男としても面子が潰れかねない。 その話を聞いたとき、男としてその教師に同情する気持ちになる。 ノリカは岐阜県の飛騨地方の出身だといった。 家庭での問題、そして両親への不信感が彼女の歯車は狂わせた。 彼女が中学の時は「学校始まって以来のスケ番」へと成長した。 男子以上の長身で暴れる様は、相当の迫力と恐怖があっただろう。 彼女が荒れに荒れていた頃、何かと世話を焼かせたのが担任とその生徒指導の教師。 何かと問題を起こす度に、激務の合間を縫ってどこにでも出動させた。 「向こうも驚いてね、「『おい高田!ここで何やってるの?』って怒られた(笑)」 「高田?」 「あ・・・・本名。内緒ねっ」 話に興ずる彼女は自分の本名を思わず口にしてしまう。 「先生、どこで分かったの?って聞いたら・・・」 「身長じゃない?」 「そう!お化粧では誤魔化せても、こればかりはどうにもならないね」 「まあねぇ。整形手術で削る訳にも行かないし」 「(笑)でね、先生が言うの」 「何て?」 「学校何度も変わったけど、お前ほどのワルは居なかったって」 「相当やんちゃだったんだねぇ(感心)」 「私が学校で壊した所、まだ分かるって言ってた(笑)」 身振り手振りで面白く話をしてくれるノリカ。 俺は誰もが気にする事を、思い切って聞いてみた。 「でさ、したの?その先生と」 「・・・・しないよぉ!『お前とは出来ないなー』って、ずっとお話」 ノリカは一気に顔を真っ赤にして否定した。 「本当?」 「『お前は俺の中では、いつまでもあの頃の高田だ』ってお話だけ」 その生徒指導の先生とやらは、欲望よりも再会の喜びをとったのだろう。 「でもさ、昔は先生なんて皆大嫌いで、反抗ばっかりしてたけど・・・ 本当は一人になったときに、後から先生の言葉がずっとジンジン響くのね」 不良仲間や慕ってくる舎弟がいる手前では突っ張り通さざるを得ない立場だった彼女も、 一人になって冷静になると、彼らの説教や言葉を噛み締めるのだ、とこぼす。 特に・・・警察にも何度も補導され、学校という組織から見捨てられても仕方ない程 荒れ果てた彼女を、卒業まで決して見捨てなかった担任と生徒指導の先生。 彼女の耳に、そして心にその先生たちの言葉はしっかりと届いていたのだ。 当時への深い反省と感謝の気持ちが、愛嬌ある言葉の端々から伝わってくる。 「帰る時『元気にしている事が分かって良かった、早く嫁に行けよ』って言うの」 「で、なんて答えたの?」 「先生もこんな所で遊んでちゃダメだよって言ってやった(笑)」 ひどく荒んだ背春時代を過ごしたとは思えない和やかな笑顔で、舌をぺろっと出す。 人は何時までも、自分の親の前では子供だという。 ならば人は何時までも、自分の恩師の前では教え子なのだろうか。 ノリカ、いや稀代の不良『高田』は、彼の前ではまだまだ一人の生徒だったのだ。 いきなり彼女は俺に抱きついてきた。 「私ね、最後に『先生だぁい好き!』ってこんな風に抱きついちゃった」 「せ、先生どうしたの?」 「すごく照れてた(笑)」 無邪気な表情でおどけて見せる。 <以下次号> |
Directed by TAIRA ©2002 TAIRA All Rights Reserved. ここに登場する女性・出来事は実話です。 Web上で公開するために脚色・演出してあります。 このサイトの全てにおける無断複製・転写を一切禁止します。 また、このサイトに掲載されている文章の全てにおける著作権は放棄しておりません。 商業誌、商用サイト等への転載および引用につきましては、 「華のエレヂィ。」メールフォームより お問い合わせ下さい。 + very special thanks + Design by shie*DeliEro thanks for Photo→Cinnamon |
|