華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜 | ||
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2002年09月03日(火) 過ぎし夏のmemories。 『改札口』 |
<前号より続く> そして春休み明けの4月。 大学の構内最大の611教室は久しぶりに満杯となった。 平成5年度の第3学年・履修ガイダンズである。 俺と藤崎は進むコースが違うこともあり、履修する教科も重なる事もなく、 一緒の授業も無くなった。 そして新歓コンパ後、飲み会を開催する機会も少なくなった。 藤崎とも少々疎遠になりつつあった。 そんな頃、藤崎から電話が掛かってくる。 他愛もない会話から、最近のサークルの不満へと話が移る。 彼女の不満は、例の飲み会の開催がないこと。 「平良ぁ、最近飲み会やんないの?寂しいじゃん」 「ああ、俺も含めてみんな忙しくてな。音頭をとる人がいないんだ」 「ここで一発やって男を上げろよ」 「俺も朝から晩まで授業とバイトで詰まっているんだ」 「しょうがないなぁ・・・でもまた飲みたいね」 「ああ」 「今度、飲みに行こうか?」 「あ?」 「行こうよ・・・二人だけで」 「藤崎と?いいよ、そりゃ・・・」 大抵は口約束で終わるものだが、藤崎は来週の金曜日に会おうと指定してきた。 約束の金曜日。 指定された名鉄豊田市駅の高架下にある本屋にて待ち合わせ。 「分かりやすいように、エロ本コーナーの前で待ってて」 奴はそんな条件をつけてくる。 俺は当然守るはずもなく、近くの文庫本コーナーで様子をうかがう。 後ろから俺のふくらはぎを爪先で蹴る奴がいる。 驚いて振り返ると、藤崎だった。 しかしいつものボーイッシュなだけの彼女ではなかった。 今日はジーンズではなく、白い帆地のスカートをはいている。 そして軽く化粧を施し、小さいイヤリングを付けていた。 藤崎は俺の顔を見た途端、恥ずかしそうに少し俯く。 「藤崎ぃ、なんかいつもと違うなぁ」 「何よっ、ジロジロ見るんじゃないって!」 恥ずかしさからか、藤崎は半ば怒った口調で俺に喰いつく。 俺と藤崎は二人で行きつけの居酒屋に向かった。 カウンターで二人肩を並べて、瓶ビールを注ぎ合う。 明らかにいつもと違う藤崎は、 決して俺と目を合わせることなくグラスを軽く合わせた。 いつもと違う、乾杯。 俺も何だか調子が掴めず、グラスのビールを一気に空ける。 「いくねぇ、平良。じゃ私も・・・」 藤崎も負けじとグラスのビールを空ける。 いい飲みっぷりだ。 「瓶じゃ何だから・・・やっぱりジョッキで行くか?」 「いいねぇ、そうこなくちゃ!」 アルコールの勢いを借りて、俺と藤崎はいつもの調子を取り戻す。 よく飲みよく喋る、賑やかな酒席となった。 俺は今宵の疑問を切り出した。 「しかし藤崎、今日どうしたの?化粧にスカートとは」 「いいじゃん、たまには。私だって女だよ」 「女?生理かよっ?」 「違うよ!馬鹿っ(肩へパンチ)」 「痛て・・・でも何か調子狂うよ。思わず口説きそうになるもの」 「ば、馬鹿!ダメだよ、ダメダメ」 「今夜は下の名前で呼ぼうかねぇ・・・みゆき、今夜は帰さないからな・・・」 「あのねぇ、ダメだったら。調子狂うから・・・(笑いながらパンチ)」 凶暴ではあるものの、やはりいつもの藤崎ではなかった。 いつもは感じない女の色気を感じる。 考えてみれば、藤崎も21歳。 大人の女性だ。 俺の心の中で、藤崎のポジションが微妙に変わってきていた。 女として、意識して彼女を見るようになっていた。 酒の勢いだけじゃない。 彼女の変貌だけでもない。 これは、ほのかな恋愛感情なのかもしれない。 酒が進むに連れて、藤崎も頬を染めトロンと潤んだ瞳で俺を見つめている。 いつもの飲み会では見せない表情だった。 俺と藤崎は終電時間間際まで盛り上がった。 「平良、もう帰らなきゃ・・・」 「何だ、もうそんな時間かぁ」 俺は店での清算を済ませて、徒歩で藤崎を駅まで送る。 「いやぁ、今日は面白かった・・・藤崎が初めて女に見えた(笑)」 「あのなぁ、私は女だっちゅうの!」 「いつもの格好じゃ男に見えるって。お前、胸も小さいし」 「悪かったなぁっ!(笑)」 フルスィングの袈裟切りチョップが俺の背中を襲った。 改札口。 藤崎は定期券を自動改札に差し入れ、構内に入る。 「平良、今夜はありがとう。本当に楽しかった」 「あ、ああ。俺もな」 「でも平良、口説き下手だよね」 「あ?」 藤崎の意外な一言に、先程のチョップの痛みでも醒めなかった 心地良い酔いが飛びかけた。 「だからもてないんだって、平良」 「・・・」 「じゃあね、また学校で!」 ちょっぴり心に引っかかる言葉を残して、 藤崎は終電が滑り込むホームへと消えて行った。 藤崎を女として、初めて意識した夜。 <以下次号> |
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