華のエレヂィ。〜elegy of various women 〜
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2002年06月27日(木)

一生に一度の夜。 〜tel sex〜


<前号より続く>


 「あ、あの、もしもし・・・・分かりますか?」
「あ、はい」


美紀子は幾分緊張気味なのか、堅苦しい口調で話す。
あれだけ店でからかって来た女と同じ人物とは思えない。

「先日は、僕も勝手で失礼しました」


俺は大人の気持ちで謝罪する。関西弁の訛りで。
美紀子は受話器の向こうで、やはり吹きだした。

また笑っていやがる。


「何でそんなにおかしいんですか?」

今考えても、結構きつい口調だったと思う。


 「ごめんなさい、でも・・・好きなんです、関西弁が」


東京で生まれ育った美紀子には新鮮だった関西弁。
テレビの向こうでしか聞いたことの無かった言葉を、
目の前の男の子が話すのが、何とも面白かったそうだ。

変だから笑うのか、見下しているから笑うのか、と思っていた俺。
好意的な見方だったのならば、まだ悪い気もしない。


 「平良君、また美味しいお酒を飲みましょうね・・・」

俺は軽い気持ちで話していたのだが、人を茶化すのが好きな糸川さんとでは、
先日の二の舞になりそうだと思い、返事を戸惑った。


 「今度は、2人で」

この言葉が最後についていた。


俺の心臓は高鳴った。


「2人で、ですか?」
 「いやなの?」

「いや、そうじゃないですけど・・・・」
 「だったら・・・じゃぁ、今度は君の部屋に遊びに行こうかな」


悪戯っぽく受話器に囁く美紀子に、俺は返事を渋る余裕もなかった。


「い、いいですよ」
 「じゃ、決まりね。おやすみなさい!」


切れた電話を握り締めたまま、俺はぼんやりとしていた。
さすが経験豊富な大人の女だ。うまく丸め込まれた。



電話が好きな美紀子は、その辺りから一日に3回電話を掛けて来た。


朝は「平良、おはよう」とモーニングコール。
夕方は「平良、おかえり」と留守電メッセージ。
夜は「平良、起きてる?」と甘いピロートーク。


俺も嫌な気分ではなかった。美紀子に気を許していたのだろう。
また節度を知る、大人の女性だった美紀子は決して無理な要求はしないし、
理不尽な我が侭を言ってこない。
束縛ではない「甘え方」を知っている。



そんな電話が数週間続いたか。
美紀子の存在は、俺の中で徐々にかえがえの無い存在に変化しつつあった。


ある夜の事。


 「平良ぁ、そろそろ寝るね。明日早いんだぁ」

美紀子が眠そうな声で、電話を切ろうとする。


「いいよ、じゃまた明日だね」
 「お願いがあるんだけど・・・聞いてくれる?」

「何?」
 「あのね・・・おやすみのkissしてほしいな」


珍しく、可愛い甘え方をしてくる。


俺は受話器に向かってチュッとkissの音を出した。


 「んっ」

美紀子から声が漏れる。


「どうしたの?」
 「なんでもないよ、なんでも・・・」


動揺している様子の美紀子に、俺はもう一度kiss。


 「やんっ・・・」


受話器の音で、感じてしまったらしい。
受話器が耳に密着しているので、本当にkissされていると錯覚するらしい。

耳が特に弱いそうだ。
後で聞いたら、そこが性感帯だったのだ。


 「平良、意地悪しないで・・・眠れなくなっちゃうから」
「どうして?」

 「・・・バカ」


当時は一応童貞でも状況は理解できる。
俺は続けてkissしてみた。


 「だめ、だめだったら平良・・・あんっ・・・・・・」
「感じやすいんだな、美紀子は」


俺は冷静に振舞っているものの、俺自身は完全に勃っている。
電話なら相手に分からないので、良かったのか悪かったのか。


 「平良、どうしよう・・・・」
「どないしたんや?」

 「・・・・意地悪するから、我慢できないの」
「何が?」

 「・・・・バカ、いやっ・・・恥ずかしいよ・・・」
「電話じゃ分からんやないか」


息も絶え絶えになりつつも、抵抗してくる美紀子。
俺も激しい心臓の鼓動に、次の言葉が続かない。

あの女が、受話器の向こうで、東京の街で感じている。
生身の女の息使いが熱く伝わる。


 「・・・・ドキドキしちゃって、疼いてるの」
「どこが?」

 「もう、我慢できなくて・・・触っちゃってるの」


当時、女性の性欲など分かるはずもない俺。
本当に何のことが分からないのだが、どうも言葉責めになっているようだ。

俺は美紀子がウズウズしているのだろう、位しか分からなかった。

何度もkissしてみる。
美紀子が受話器の向こうで可愛い声で喘ぐ。

俺も興奮の極みだ。


 「・・・平良、お願い・・・入れて欲しい・・・」

美紀子はそんな無茶を言ってくる。
当時テレフォンSexなど知らなかった俺。


 「もうね、我慢できないの・・・」


美紀子は受話器の向こうで泣き声のような喘ぎ声を上げる。
ふと、一段と大きな声を上げた。


「どないしたんや?」
 「今ね、入れたの・・・・指・・・だって我慢できないんだもの」


俺の妄想の導火線は、起爆装置寸前まで達していた。


「俺も入れたいわ、美紀子に・・・・」
 「来て、来て・・・あ、ダメッ・・・イッちゃう!」


イッた後、しばらく美紀子は泣いていた様だった。



 「信じられない・・・」


しばらく経った後、美紀子はポツリと漏らした。


「何が?」
 「電話でも・・・こんなになっちゃうんだね」

「すごく可愛い声やったよ、俺もすごくドキドキした」
 「抱きしめて欲しい・・・すごく切ないの」


美紀子は甘えた声で、男心をくすぐる台詞を口にする。
俺もそばに美紀子がいれば、きっと強く抱きしめていただろう。

それから俺と美紀子は以前にも増して親密な関係になった。
俺も彼女に対して、以前よりも心を開くことができるようになった。



<以下次号>








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