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2002年05月10日(金) 初めての風俗。 その3(完結編) |
<前号より続く> 景子に一度、素朴な質問をぶつけた事がある。 「なんで大学出たのにこんな世界(風俗業)に入ったの?」 今ほど就職難ではなかった時代。それも就職経験すら無く、 卒業後すぐにヘルスに『就職』した。 「まあ、私H好きだし」 などととぼけてみせる景子。 嘘付け、と内心思った俺。 瀬戸にある女子高を卒業後、名前の知れた大学の法学部に進んだ景子は 商法を学ぶ傍ら、自動車競技部のマネージャーとして活躍していた。 実家も自動車関係の仕事をしている事もあり、 景子にとって自動車は本当に身近な存在だったそうだ。 学生時代からセダンを乗りまわし、活発な女の子だったそうだ。 ある日。 景子と友人2人との3人で北海道を旅行中、不運にも交通事故に遭った。 重傷を負うものの生き残ったのは、景子ただ1人。 あとの2人はそのまま天に召された。 話の流れの中でそんな話を俺にしてくれた。 辛すぎる過去をまるでどこかの他人事のように淡々と。 同じ車に乗りながら、友人の命を何も出来ずに見送り、 自分ひとりだけが生き残る。 残された彼女がたった一人で受けた衝撃と罪悪感は計り知れない。 病院のベッドで過ごした時間はどれだけ長く感じたのだろう。 「何で私が生き残るの?何で・・・?」 それからの彼女は、「明らかに人生観が変わった」という。 そして数え切れないほどの男と関係を持つ。 どんな形の事故であれ、「生き残った」事は間違いなく幸運なのだ。 生き残った者にしか解らない辛さ、苦しさ、切なさ、侘しさ。 そんな「生き地獄」を心から癒してくれる相手を、景子は求めていたのだろう。 風俗店で知り合う客とも「個人的な関係」を何度か持ったそうだ。 しかし結局、「客」であった男が本心からヘルス嬢に求めるのは、ただ一つ。 ヘルス店では出来ない「生本番」だった。 そして例え風俗店以外で知り合った男にも本当のことは言えない。 心を開いて話したところで、そんな女に男が注ぐのは蔑視的な視線と意識だ。 それでもクミは、いや景子は求めた。 本当に癒される男を、そして安心して休める場所を。 愛も志も持たない男と交わり、何度も妊娠中絶を経験した。 自費で堕ろすことさえあった。 その度に心も身体も深く傷付いた。 景子は、それでもなお求めて続けていったのだ。 天国にいるはずの景子の友人は、 そして生き残った彼女を無言で責め続けた、あとに残された友人の家族は、 そんな彼女の自傷行為にも似た荒んだ生活を、 どんな心境で眺めているだろうか。 何一つ誉められた行為ではない。でも俺には止めろ!と言う勇気が無かった。 その痛みを、苦しみを、辛さを共有する事が出来ない、と感じていたからだ。 初めて二人で出かけた店で食べたオムライス。 夜のデートがてら、景子にいい所あるよ、と案内されたのは彼女の母校。 校門をくぐり、忍び込んだ校舎奥の非常階段からは、 名古屋の夜景が遠くに見える、隠れた絶景のスポットだった。 うちに来た時、本当に美味しそうに、おかわりまでして飲んでくれた、 サイフォンで淹れたコーヒー。 辛い事や、面白い出来事があった時、必ずあった深夜の電話。 時には二人で笑い転げながら、時には話し込みながら時間を過ごした。 他の男と明らかに違い、当時金のない俺を気遣ってくれたのか、 本当にお金のかからないデートで楽しんだ。 俺は他の男とは違う立場で、男友達として、景子に受け入れられていたと思っている。 風俗を無事引退後、景子は長年の夢だったネイルアートを生業として始めた。 はじめはネイルサロンに入り、収入が激減するのを覚悟で修行がてら腕を磨いていた。 しかし長引く不況に加え、まだネイルアート自体が世間に認知されていない事もあり、 いつしか赤字にまみれたサロンを辞め、自宅で顧客相手に細々と営業をしていた。 結婚話もご破算。やはり相手は「風俗嬢」との本番が目的だったようだ。 結局夜にスナック勤務を平行し、その後間もなくまた風俗業に逆戻りしていった。 「一度身についた派手な金銭感覚は戻せない」 そんな事も言っていた。 また詳しくは話さなかったが、何やら「裏」の方にも手を染め出したらしく、 あまり誉められた生活をしてはいなかったようだ。 その後。 しばらく連絡がないな、と思いこちらから携帯電話に連絡した。 「この番号は現在使われておりません・・・」 今度は彼女の部屋に電話してみた。 「この番号は現在使われておりません・・・」 あれだけ心を砕いた関係だった景子は、俺に何の相談も通告も無く、姿を消した。 いきなり訪れた景子との別れ。 しかし、景子はいつかこんなことも言っていた。 「親が見合いを迫ってきて、うるさいんだぁ」 俺は信じていたい。 今もどこかで、景子が苗字を変え、平穏な主婦の生活を過ごしていると。 ようやく手に入れた「信頼できる旦那」と甘い時間を過ごし、 「平穏に過ごせる家」で主婦としてのんびりくつろいでいることを。 初めての風俗。 完 ☆最後まで読破していただき、ありがとうございます。 気に入っていただけたら、My登録&投票を宜しくお願いします。 |
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