2009年07月22日(水)  『ぼくママ』キャリア・マム試写会&『愛を読むひと』

新宿バルト9にて、働きたい女性のためのコミュニティサイト「キャリア・マム」の会員限定『ぼくとママの黄色い自転車』(公式サイト、リニューアルしました)試写会。キャリア・マム代表取締役の堤香苗さんと上映前にトークということで、45分前に会場入りし、顔合わせと打ち合わせ。神戸出身の二児の母でフリーアナウンサーの堤さんは、さすが空気を作るのがお上手で、あっという間に和やかに打ち解けられた。キャリア・マム取締役の井筒祥子さんとコーディネイターの宮入美由紀さん、宣伝のトルネードフィルムの田中久美子さん、共同テレビの井口喜一プロデューサーと本番までのおしゃべりが弾んだ。

トークの時間は15分。開始が少し遅れたので、正味は10分強ぐらい。堤さんのリードに乗せられて気持ちよく、「原作を脚本化するにあたって」「キャストのイメージは?」などについて話す。原作『僕の行く道』の著者である新堂冬樹さんのことを「『黒い太陽』などを書かれている……」と紹介したが、奇しくも「黒い太陽=日食」の日であり、ちょうど公開一か月前。公開日が娘の3才の誕生日に重なること、生んだ直後に原作を読んで、「子どもと引き裂かれるなんて想像できない。でも、もしそうなるとしたら……と考えて脚本を練った」話をする。原作から大きく変わったのは、同行するのがネコではなく犬になり、移動が新幹線ではなく自転車になった点だと話し、ドッグトレーナーは『子ぎつねヘレン』でキツネに演技させた人だと紹介。「『子ぎつねヘレン』を観られた方?」と客席に尋ねると、かなりの数の手が挙がって驚いた。阿部サダヲさんのファンの方々でしょうか。

最後に見どころを聞かれて、小豆島の美しさを挙げた。ロケにずいぶんご協力いただいているが、絵になる風景の数々をお借りしている。この作品を観て、小豆島を訪れたくなってくれたらうれしい。そして、朝ドラ「つばさ」の宣伝もさせていただく。「つばさ」と『ぼくママ』は、人を信じるあたたかさが似ていると思う。

いよいよ上映。スクリーンで観るのはこれで3度目で、答え合わせは一段落し、だいぶ冷静に観られるようになった。毎回客席の反応が少しずつ違うのが興味深い。観終わった後、堤さんは「泣きました〜」と涙で鼻声になったまま次の打ち合わせへ。出口で観客の皆さんをお見送りしていると、何人かの方が声をかけてくださった。大志が旅先で出会う人たちが「ありがとう」と大志に声をかけるところを「あなたの印象に合っていた」とうれしい言葉もいただく。

トークの模様はキャリア・マムのサイトに掲載されるそう。堤さんはブログ「堤香苗のほんねのはなし」でも早速取り上げてくださっている。

せっかくバルト9に来たことなので、『愛を読むひと』を観て行くことに。レディースデーということもあって、満席。原作のドイツ語題は『Der Vorleser』で英題は『The Reade』。日本語版も『朗読者』と直訳だが、映画では『愛を読むひと』と名づけたのがうまい。読むことが愛情表現そのものであり、読むという行為で愛の強さと深さを物語る作品。女は誰でもピロートークが大好きだけど、「順番を変えましょう」とケイト・ウィンスレット演じるハンナが提案したことから、朗読は愛撫の意味合いを強める。15才のマイケルが最初に本を読み聞かせたきっかけは、彼女が「読んでよ」とせがんだからだが、英語では「I'd rather listen to you」、あなたが読むのを聞きたいというのが可愛い。

前半はいちばん多い衣装はヌードというほど入浴やベッドの場面が多い。中年にさしかかったハンナの裸は艶かしいというよりは生々しく、一人で生きる女の孤独や悲しみや疲れを宿し、マイケルの若さとたくましさが際立つ。親子ほどに年が離れた二人は互いを埋め合うように恋に落ち、逢瀬を重ねる。言葉での説明を排し、なるようになったと描かれ、観客もまたそう受け止める。

これでもかと肌を重ねる前半があるから、指一本触れるどころか互いの顔を見ることもできない後半が活きてくる。そのとき、読むという愛情表現が真価を発揮する。マイケルの朗読のたたみかけは、物語の伝承者となった人々が各自の物語を口ずさみながら行き交う『華氏451』のラストを彷彿とさせ、美しく力強く愛を謳う名場面となっていた。彼の朗読が彼女の人生の終盤にもたらした奇跡と呼んでいいような変化にも心を動かされた。定冠詞の「the」で涙を誘われたのは初めてのことだ。生きることは世界を知ること、その喜びが彼女が「the」を口にする場面に凝縮されていた。

生きること、愛することの重みと苦しみ、その中に光る希望を求めようとする人の悲しみ。ひたひたと問いかけることの多い作品だった。観終わって立ち上がるとき、隣に座っていた初老の夫婦の夫が「原作では書き置きの意味がわからない場面があった気がする」と話しているのが耳に入り、勝手にその場面を頭の中で思い浮かべて、また涙を誘われた。原作をずいぶん前(ヤシガニ脱走騒動があった日だから2003年9月)に友人から強く勧められながらまだ読めていないのだが、ぜひ手に取ってみたくなった。

また、劇中でマイケルがユダヤ人強制収容所を歩く場面があり、アウシュビッツを訪ねたときのことを思い出した。以前日記に書いたこともあるが(2002年10月21日(月) アウシュビッツの爪痕)、旅行記代わりの絵日記がどこかにあるはずで、掘り出したいと思っている。東ドイツにあった収容所を訪ねたのが中学一年のときで、その頃に『アンネの日記』にはまり、日記を熱心に書くようになったのだが、ホロコーストを取り上げた作品にアンテナを向けてしまうのもそのせいかもしれない。

予告編では『ぼくママ』が流れた。テイストは違うけれど、愛する人の嘘を尊重して守ろうとする『ぼくママ』の一志(阿部サダヲ)と『愛を読むひと』のマイケルの一途で不器用な姿が重なった。

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