銀座のメゾンエルメスで「南インドの食事を食べ終えた風景」をアートにした『レフトオーバーズ』という展示があることを知ってしばらくしてから、同じくメゾンエルメスで上映中の『India:Matri Bhumi』の案内をいただいた。エルメスの10階に「ル・ステュディオ」という40席のプライベートシネマがあり、季節ごとに興味深い映画作品を紹介していることを教えてくれたのは、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭事務局の木村美砂さん。
「ついでにインド料理をどう?」と友人アサミちゃんを誘い、ダバ・インディア姉妹店の南インド料理屋『グルガオン』で気分を盛り上げた後、これまで前を通り過ぎるだけだったメゾンエルメスに初めて足を踏み入れる。事前情報なしに観た『India:Matri Bhumi』が始まって間もなく、掘り出し物!と内心で快哉。ドキュメンタリー映像に淡々としたフランス語のナレーションが添えられた90分は、象、川、虎、猿という自然と人間が織り成す4つの物語になっている。腕を組むように雄象の牙に長い鼻をからめる雌象。そんな象の恋を自分の恋に重ねる象使い。ダム建設の犠牲者の名が刻まれた記念碑を見上げ、洪水の被害者の名を刻むならダムの長さの碑が必要だっただろう、と自分の仕事を誇らしく振り返る作業員。飢えて人を襲う虎を退治しようとする村人に先回りし、地上は全員が住めるほど広いのだから、と虎を説得して他の場所へ行かせようとする老人。死んだ主人の亡骸に取りすがった後、単身で町に戻り、サーカスの男に拾われる見世物の猿。裸足で踏ん張って生きる人たちは、大地のエネルギーで充電しているかのような生命力を感じさせ、人間も動物も緑も水も異なる姿かたちをした自然の一部なのだと感じさせる。自然と人間の距離は近く、結びつきは強く、寄り添い、助け合い、ともに生き、「共生」という言葉がしっくり当てはまる。自動車は走っているけれど他の機械はほとんど登場しない時代の風景だから、インドでも今日では昔話なのかもしれない。
見終わってから、ロベルト・ロッセリーニ監督が1959年に発表した作品だとわかる。「有名な映画監督だよ。『緑の光線』とか」とアサミちゃんに嘘を教えてしまった。『緑の光線』の監督はエリック・ロメールだった。ではロッセリーニ監督の代表作はというと、作品一覧を見ても、観たことあるものがないという勉強不足。
『レフトオーバーズ』がこれまた楽しい。バナナの葉っぱにのっかった南インドの定食、ミールスが、ざっと数えて百人前。ずらずらっと床に並んでいる。親戚の集まりがあったのか、村の寄り合いだったのか、車座になって食事を囲んでいた人たちはいなくなり、食べ残しだけが残された(つまりレフトオーバーズがレフトオーバーされた)風景がアートになっている。バナナの葉も、その上のおかずもごはんもモンキーバナナも日本の食品サンプル技術で表現されていて、ひとつひとつ盛りつけも食べられ具合も微妙に違う。「この人全然手つけてないよ」「ごはんは白いのとドライカレーっぽい茶色いのと2種類あるね。機内食みたいに選べるのかな」「ドライor ウェット?」「そもそもこれはどうやって盛りつけるの? バイキングだと葉っぱがしなって食べものが偏っちゃうから、葉っぱの上に配膳係が配っていくのかな?」などとアサミちゃんと突っ込みを入れながら見て回った。作者のN.S.ハーシャさんは「食と人」の関係に注目する1969年生まれのアーティスト。気が合いそうだ。
『レフトオーバーズ』は9/15まで。『India:Matri Bhumi』は9/27まで。毎週土曜11時/14時/17時。入場無料、完全予約制(03 3569 3300 同伴1名まで予約可能)。近くの銀座ハンズ8階では、友人の絵師ミヤケマイが益子焼の作家さんと作った土鍋や鍋敷や香炉を展示販売している「火の道具」展を9/30まで開催。
シモキタに移動して、夜はG-up企画・製作の第6弾『ペガモ星人の襲来』を駅前劇場で観る。脚本が後藤ひろひとさん、演出が関秀人さん、キャストには五反田団の後藤飛鳥さんや絶対王様の有川マコトさんや小椋あずきさんやあひるなんちゃらの黒岩三佳さんなど、これまで舞台を観て心惹かれた役者さんたちが名を連ね、おまけに「ラジオドラマ全盛期、アメリカの『火星人襲来』に触発されて製作したラジオドラマの効果音をめぐる物語」。NHK-FMで放送された今井雅子脚本のオーディオドラマ『昭和八十年のラヂオ少年』では、大正生まれの少年と平成からタイムスリップした少年が日本版『火星人襲来』の脚本を練る。そんな親しみもあって、チラシを見ただけで期待値は跳ね上がった。
現在と過去を行き来しながら、なぜか第一回で打ち切られた連続ラジオドラマ『ペガモ星人の襲来』の謎が明らかにされていく。合間にはさまれるお遊びのバカバカしい番組がいいスパイスになって、笑いの要素もたっぷり。音響効果スタッフが物語の鍵を握るだけあって、傘の開閉で鳥の羽ばたきを表現したり、風船をこすって蛙の泣き声を出したりといった効果音の実演が視覚的にも楽しめる仕掛けになっている。小学校時代、必修クラブの放送劇で手づくりの効果音を工夫した思い出が蘇った。コピーライターになってラジオCMを作る頃には一枚のCDに納まっていて、ミキサーさんに「20番の『水を流す』の後に21番の『野菜を切る』を入れてください」などと指示するだけで間に合った。それはそれで便利だったけど、てんやわんやの効果音作りを見ていると、ああいうことやりたかったなとうらやましくなった。
幻のドラマを再現するにあたって集められたメンバーはオリジナル版の制作メンバーとの一人二役で、血縁者だったり顔が似ているという設定だったり。究極の音を追求した音効スタッフが奇跡を呼んだせいで事件が起こり、その記憶は打ち切られた番組とともに封印された……というファンタジーっぽい落ちもわたし好み。遊気舎二代目座長だった後藤ひろひとさんが今から13年前、1995年にはじめてギャラをもらって立身出世劇場にあてて書いた作品だという。達者な出演者もアッパレ!
G-up presents vol.6 ペガモ星人の襲来 【CAST】 ポキ(大谷雄二) 吉岡毅志 (演劇集団スプートニク) クリさん(栗山寛之進) 有川マコト(絶対王様) 仁太 瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ) ミッチ(春本美智子) 後藤飛鳥(五反田団) 黒さん(黒田甚五郎) 赤星昇一郎 チョロ(宇野弘) 森啓一郎(東京タンバリン) 岸田浮世 小椋あずき 林田藤吉 岩井秀人(ハイバイ) 岡田良 大内厚雄(演劇集団キャラメルボックス) 木浦夕子 町田カナ プロデューサーほか色々 柿丸美智恵(毛皮族) ミゴー佐々木ほか色々 黒岩三佳(あひるなんちゃら) ひろみほか色々 森下亮(クロムモリブデン) ディレクターほか色々 板倉チヒロ(クロムモリブデン) AD 森田祐吏(北京蝶々) 守衛さん 関秀人
【STAFF】 プロデューサー 赤沼かがみ 脚本 後藤ひろひと(Piper) 演出 関秀人 |
2007年08月30日(木) マタニティオレンジ169 布おむつはエコかエゴか