生まれたばかりなのに、もうお受験の話、ではなく、文字通り赤門を抜けて東大へ行ってきた。東大はわが家から歩いて40分ほどの散歩コースだけど、今日は研究室からお呼びがかかったのだった。声をかけられたのは、わたしではなく、生後3か月半のたまである。
差出人「東京大学 大学院教育学研究科・教育学部 身体教育学 多賀厳太郎」の封書が届いたのが先月末。「生後3ヶ月齢の赤ちゃんがものを見たり、音を聞いたりしているときの運動や、脳の活動を調べる研究」に協力する「赤ちゃん研究員」を募る内容だった。住所と名前は区役所で住民基本台帳を閲覧して調べられたとのこと。ちょうど10月22日に放送されたNHKスペシャル『赤ちゃん成長の不思議な道のり』を大変興味深く観て、ベビーヨガのクラスでも話題になっていたのだが、番組の中で紹介されていた研究室からの思いがけないお便りに、「すごい!」「面白そう!」と夫婦で興奮した。
今日の主役はたまであり、わたしは「たまちゃんの付き添いのお母さん」。これから行う研究の内容を丁寧に説明され、母親が納得、同意した上で開始。一つ目の研究は、太陽光線よりも微量の光を発する光トポグラフィというミニクリスマスツリー電飾状のものを帽子のように頭にかぶせ、二種類の映像を見た反応を測定。光の反射でブドウ糖の消費量がわかるのだが、ブドウ糖が消費されている部分の脳が活性化しているということらしい。「カラフルなメリーを下から見た映像」と「意味のなさそうな格子模様の映像」が「黒み代わりの花火の映像」を間に挟んで繰り返される。研究員さんに抱かれたたまは興味があるのかないのか、ずっと指をしゃぶっていた。
二つ目の研究は、寝転がした赤ちゃんの両手両足に小さなボールのようなものを着け、手足の動きをコンピュータで分析。左手と頭上のメリー風おもちゃをひもでつなげ、「左手を動かすとおもちゃが動く」ことに気づいたときの反応とその後の手足の動きを追う。たまはまだ自分で物をつかんで遊んだりしないのだが、「今、関係に気づいた」とわかる瞬間があり、その後はしきりと左手を動かすのが確認できた。今度は、左手につけていたひもを今度は左足につけかえ、「左手ではなく、左足を動かせば、おもちゃが動く」ことをいつ発見し、手足の動きがどう変化するかを測定。前の記憶が残っているのか、たまはしばらく左手をしきりに動かしていたが、「左手を動かしてもおもちゃが動かない」ことに苛立ってぐずりだし、退屈して指をしゃぶり始めた。両手両足のボールは止まってしまい、新発見には至らなかった。
謝礼代わりに今日の研究の様子を納めたDVDと「赤ちゃん研究員」の認定証をいただく。たまは1057人目の研究員だった。母娘で記念撮影もしてもらえた。「どこで撮りましょう?」と聞かれ、「研究室らしいところで」とリクエストすると、「毎日ここにいるので、どこが研究室らしいんだか……」と研究員さん。二つ目の研究をしたメリー風おもちゃ(よく見ると、タコ足にリボンと鈴を取り付けた手作り)の前で撮っていただく。多賀研究室では0〜3ヶ月の赤ちゃんを対象とした複数の研究を行っており、赤ちゃん研究員を随時募集中とのこと。
2004年12月08日(水) 『frame』 by Takeshi Sasaki