作品に関わるたびに新しい人に知り合えるのは、とても楽しい。映画『子ぎつねヘレン』もまた、ドキドキする出会いを運んでくれている。脚本を書くようになって、会いたいと思う人に会える機会が増えたけれど、ヘレンの音楽を担当されるのが西村由紀江さんだと聞いて、「ついに来た」と小躍りした。5年ほど前、何気なくつけたテレビで西村さんのドキュメンタリーをやっていて、たたずまいやメロディの美しさに引き込まれ、脚本を書き始めたばかりだったわたしは、いつか作品に曲をつけてもらえる日が来るのかなあと想像した。番組には『粉雪のピアニスト』というかわいらしいタイトルがついていて、以来、テレビや新聞で見かけると、「粉雪の人だ」とうれしくなっていた。
その西村さんがロケ地網走を訪ねる日が、ちょうどわたしの網走見学のタイミングに重なった(記念にいただいたCD『しあわせのかたち』のサインを見ると、6月19日の出来事。デビュー20周年を記念して立ち上げた公式サイトのエッセーページにもロケ地訪問の様子が綴られている)。「作品のイメージをつかみたくて、まいりました」と現れた西村さんは、ロケセットのひとつひとつを見ては「まあ」とか「へえ」とか感嘆詞をこぼし、秘密基地を探検する少女みたいに無邪気に瞳を輝かせていた。「脚本の今井です」と思いきって声をかけると、「泣きました。脚本読んで、ぽろぽろと。でも、あまりに入り込んでいて、泣いていることに気づいたのは、読み終わってからなんですよ」。お会いできただけでも感激なのに、ありがたいお言葉。後日、西村さんから「“脚本家”というと、もう少し堅いイメージを持っていたので(ピアニストも同じように思われるのですが)、今井さんのやわらかい雰囲気に、心が和みました」とメールが届いたが、わたしは西村さんの前で、骨抜きふにゃふにゃになっていたのかもしれない。粉雪の番組は「情熱大陸」だったそう。
西村さんが毎年お盆の季節に続けているLIVE『ふんわりぴあの』にお邪魔する。会場は六本木にあるスイートベイジル139。食事やドリンクを楽しみながら音楽を楽しめるライブハウス。チケットは、あっという間に完売したそう。拍手で迎えられた西村さんは、ふんわりぴあののテーマ『ふんわり』を披露し、挨拶。曲に込めた思いを聞いてから曲を聴くと、頭の中でイメージが膨らむ。脚本家が文字で物語を紡ぐように、作曲家は音符で物語を紡いでいるのだと思う。作曲しているときに感じたことや裏話をもっと掘り下げて聞いてみたい気持ちになった。
毎年恒例という「涼しくなるメドレー」、今年は「映画音楽メドレー」。背筋ゾクゾクのホラー映画『エクソシスト』のテーマで冷却というわけ。スペシャルゲストは岡本真夜さん。西村さんが作曲したドラマ『ママはアイドル』の挿入曲を高校生時代に耳コピ(=耳でコピー)していたという岡本さん、月日はめぐって西村さんの番組で対面し、昨年サッカー場で再会した直後にお仕事で再会し、今回のゲスト出演となったよう。『Alone』『Remember Me』といったせつないナンバーをしっとり歌い上げ、さすがうまいと気持ちよく酔っていたら、「いつもはもっと歌えるんです」。とても緊張されていたそう。これも恒例という「楽器に挑戦」コーナーでウクレレに挑んだ西村さんの伴奏で、ピアノの腕前も披露。岡本さんといえば『Tomorrow』を聴きたいなあと思っていたら、アンコールで登場。
わたしにとってのいちばんのサプライズは、『子ぎつねヘレン』のテーマ曲を聴けたこと。特報予告の映像を紹介し、先日ラッシュ試写を観たときのエピソードを話す西村さん。「思いついたメロディをメモできるように小さな明かりを灯した机を用意してもらったんですが、涙が止まらなくて大変でした」と左手で涙をぬぐい、右手でペンを動かす仕草。「脚本を書いた今井雅子さんも、今日どこかで聴いてくれていると思います」とわたしの名前が飛び出して、びっくり。そして、葛西誉仁さん率いる野生班が撮ったキタキツネの映像を流しながら、できたてほやほやのヘレンのテーマを披露。ちょっぴりせつないけれど悲しくない、風が草をなでるような、心のやさしい部分をくすぐるようなメロディ。音痴なので、歌って再現できないのが残念。松竹音楽出版の方やプロデューサーも駆けつけ、会場入口には松竹と共同テレビからの立派なお花が。西村さんにもスタッフ一同にも愛されてます、子ぎつねヘレン。
西村由紀江『ふんわりぴあの vol.7』 スイートベイジル139
M1.ふんわり…〜しあわせのかたち M2.笑顔に会えたら M3.手紙 M4.あなたに最高のしあわせを M5.涼しくなる映画メドレー (ムーンリバー〜サウンド・オブ・サイレンス〜いそしぎ〜エクソシスト〜追憶) M6.Alone(ゲスト:岡本真夜さんオリジナル) M7.楽器に挑戦コーナー『80日間世界一周』(映画音楽) ウクレレ:西村さん ピアノ:岡本さん M8.バードランドの子守歌(ジャズ、スタンダード) M9.いとしい人よ(岡本さんオリジナル) M10.子ぎつねヘレン M11.どうして M12.風に向かって M13.星と話す夜 アンコール 誕生〜Tomorrow(岡本さんオリジナル)
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