シアターV赤阪で『金魚鉢の中で』という舞台を見る。家を出たときは台風22号が関東地方を直撃している時間帯で、駅に着く間に傘の骨は折れ、前後左右から雨が叩きつけ、足元は蓋の開いたマンホールからあふれ出した下水が流れ、劇場へ向かう間に、わたし自身が「金魚鉢の中」状態。電車に乗り込むと「南北線は運転停止」「銀座線は神田川があふれて区間限定運転」などとアナウンスが流れ、台風真っ只中の臨場感を味わう。台風のせいで当日キャンセルが相次いだそうで、開演してから到着する人も目立った。
でも実は、今日は打ってつけの鑑賞日。作品は嵐の海を漂流中のクルーザーに閉じ込められた男女6人+密航者が繰り広げる密室ホラーサスペンスで、ラジオからは「台風25号は関東地方を直撃」というアナウンスが流れる。綾辻行人の『館』シリーズや折原一の『漂流者』を楽しく読んだのを思い出し、はらはらしながら見る。
クルーザーという密室に閉じ込められた登場人物たちが疑心暗鬼から狂気に走っていくさまと、次々に起こる事件をスリリングにたたみかけながら、あちこちに用意された「物語上の裏切り」によって登場人物たちの優勢・劣勢が逆転する。次に何が起こるかわからない展開に最後まで目が離せなかったし、勉強にもなった。作・演出のほさかようさんは若干23才とのこと。おそるべし。劇団MOTHER時代から注目のますもとたくやさんは今夜も好演。
『金魚鉢の中で』は、演劇プロデュースユニットG-upの第一回公演。このユニットを立ち上げた赤沼かがみさんとは、今年7月2日に『劇団←女主人から最も離れて座る』公演、『Kyo-iku?』を見に行ったとき、川上徹也さんに紹介され、知り合った。「まったく別なことをしてたんですけど、ひょんなことから演劇にのめりこんで、プロデューサー業をはじめたんです」とちゃきちゃき話すのを聞いて、頭に浮かんだのが益田祐美子さん。二人を引き合わせたら面白いだろうなあと思ったのだが、今夜実現。益田さんは「他人じゃない空気」を感じ取ったそう。