「料理昇降機」というタイトルに惹かれ、劇団ストレイドッグ番外公演を見てきた。工藤剛さんと古川康大さんの二人芝居で、どこかの地下室と思しき部屋で物語は進んでいく。最後まで一生懸命「これはこういうことか」と推理しつつ見ていたのだが、難しいお芝居だった。二人はどうやら殺し屋らしいというのはなんとなくわかった。誰かを殺すべく指示待ちしているのだが、ラストで、ガスと呼ばれる片割れが相棒に撃たれて死んでしまう。なぜなんだ。何があったんだ。そして、昇り降りしてメニューの注文を出すだけの料理昇降機は本当にあれでよかったのか。謎を残したまま幕は下りた。
打ち上げに参加させていただいた席でストレイドッグ主宰の森岡利行さんや昨日に続いて2度見て内容を理解したという駆け出し脚本家の千葉嬢に話を聞いてわかったのは、「原作の英語の戯曲では料理昇降機が出してくる注文メニューそのものがジョークになっていて、そこで観客は笑うらしい」「ガスに火がつかないシーンがあったが、殺された男の名前もガス(gas)なので、Fire gas(ガスに火をつけろ)はガスを殺せとダブルミーニングになっている」といったことだった。つまりはイギリスの劇作家ハロルド・ピンターの原作が日本語になったときに、何かが落ちてしまっているらしい。
原題は「THE DUMB WAITER」。DUMBには「口のきけない」「うすのろ」といった意味があるが。このタイトルにはその両方が込められているのかもしれない。物言わぬ、まぬけな料理昇降機が、階下にいるのはシェフではなく殺し屋だというのに料理を注文してくる。もちろん本当は料理昇降機のほうがウワテで、彼は「今夜の標的をどう調理するか」の注文を出しているわけなのだが。
一見バカげたメニューなんだけど、殺し屋たちにはドキッとする響きのあるメニューになっていると面白い。たとえば、「めんどりの血祭り」に昨日の殺人を思い出したり、「逃げ足の速い豚の丸焼き」に自身の不吉な運命を感じたり。料理昇降機と殺し屋の「やりとり」から、観客は二人が背負っているものを読み取っていく、その部分が今回は弱かったように思う。命令どおり男がガスを殺した後に料理昇降機が再び降りてきて、「WELLDONE」(「よく火の通った」と「上出来」のかけ言葉)というブラックユーモアはどうだろう……などと空想をたくましくしてしまうのは、この原作にそれだけそそる魅力があるということ。料理昇降機と殺し屋という組合せを思いついた時点で、ほとんど勝利を手にしているといえる。後はこの設定でどこまで遊べるかが勝負。「自分たちでもっともっと面白くできる作品だと思うし、ぜひ再挑戦してほしい」と出演の二人に伝えた。
お芝居も映画も、見るものはなんでも栄養になっていると思うが、今夜は翻訳劇の難しさと面白さについて考えることができてよかった。海外の名作を自分なりに翻訳してみたいという目標ができた。
2002年09月27日(金) MONSTER FILMS