最近、大阪の家で飼っていたトトのことを思い出している。石井万寿美さんの『ペットの死〜』を読んだせいだ。わたしが中学一年生のとき、当時小学一年生だった弟が、交通事故で前足がつぶれた雑種の子犬を拾ってきた。オズの魔法使いに出てくる犬の名前をつけた。「トトが来たのはお正月」という題の作文を弟が書いていたので、正月の出来事だったのだろう。
13年生きて、老衰で眠るように息を引き取った。そのときには、わたしは家を離れていたこともあり、石井さんが感じたようなペットロスはなかった。ただ「ありがとう」の気持ちだった。トトの思い出を挙げるとキリがないが、ほとんどが笑い話だ。
なんでも人間と同じでないと気が済まない犬だった。ドッグフードよりわたしたちの食事を欲しがった。テーブルに飛び乗って食事を横取りしたこともある。アイスクリームを食べたら、おなかをこわして苦しんでいた。がめつい性格で、食べきれなかった食パンを土に埋めたまではいいが、どこに埋めたかを思い出せずに庭じゅう掘り返して途方に暮れていた。「嗅覚のない犬もおるんやなあ」と母は呆れていた。
寒い冬はストーブの前の特等席を占領した。誰よりも前にでしゃばった結果、白い毛にストーブの網のしましま焦げ目がついた。ドライブに連れていけとせがむので車に乗っけたら、酔ってゲーゲー吐いた。
「トト、アホやなあ」と何度も笑わせてもらったおかげで、わが家はいつも明るかった。トトは、今井家に笑いと和みを運んでくれた。人間であれ、動物であれ、この世に生を受けたいのちには、意味があって、出会った人に大切なことを教えて去っていくのだと思う。そのメッセージを胸に抱いてあたため続けることが、失ったいのちとつながる方法なのかもしれない。お笑い犬トトのこころは、わたしの書くものに流れているんじゃないかな。
今日は表参道で星良ママ、あおいママと夕食。キンダーの受賞を祝って乾杯する。デジカメに撮った表彰状とコピーした『We ラブ Movies』を一緒に見ながら、良かったねえ、うれしいねえと話す。