■「これが壊れたから、君に何かあったんじゃないかと思って、飛んで帰ってきたよ」とダンナ。「これ」というのは、ティファニーのキーチェーン。朝、家を出るときに「鍵がない」と騒ぐので、「わたしの持って行っていいよ」と持たせたのだが、ネジ式の止め具の玉の片方が取れている。玉さえあれば、はめれば済むことなので、「ここにあった玉はどこ行ったの? ポケットの中にない?」と言うと、「あった!」とダンナ。しかし、取り出したのは、「TIFFANY& CO.,」と小さく刻印されたプレートだった。「なんでなくすのよ! これ、ティファニーなんだよ」と責め立てると、ダンナは「知らないよ。ティファニ−、ティファニ−ってイバるなよ。だいたい、なんで君がティファニ−なんて似つかわしくないもの持ってるんだ?」と開き直った揚げ句、「僕があげたのか?」と訳のわからないことを言い出す。「君にはもらってません」とキッパリ言うと、「じゃあ誰にもらった?」と追及してくる。「カ・イ・シ・ャ」「会社!?」。カンヌの広告祭に行ったとき、ワールドワイドの社員が集まるパーティーがあり、その記念品にもらったのだ。このティファニーには、重大な意味がある。■一度だけ、ティファニーのコピ ー(偽造ではなく広告のコピーのほう)の仕事をしたことがある。そのとき、まわりの友人たちに「ティファニー持ってる?」と聞いたら、「3つ」「4つ」なかには「7つ」なんて人もいて、しかもそれらが「自分で買ったのではなく男性に贈られた」というので、ますます驚いた。どうやら男性は無理めの女性の気を引くとき、ティファニーを贈るようなのだった。「大阪にはそんな文化はなかったのかも」と自分がひとつも持っていない理由を探ったが、その後も一向にティファニーは寄ってこない。カンヌ土産のキーチェーンは、わたしが贈られた最初で最後、たったひとつのティファニーなのだ。だから大騒ぎしているのだが、ダンナは「だったら銀座のティファニーへ行って修理しようよ」でもなく「代わりのものを探そうよ」でもなく、「お前はティファニーで昼飯でも食ってろ」とオヤジギャグでごまかす始末。とりあえずは、玉のかわりに「お菓子を巻いてた針金」で応急処置をして、使い続けることにした。わたしには、「次のティファニー」など控えてないのだ。