■清川虹子さんの訃報を夕刊で知る。名前と顔を見て、「あの人では」と思ったら、やっぱりそうだった。二年前の第26回放送文化基金賞の授賞式、元気いっぱいのスピーチで会場を沸かせたあのおばあちゃんだ。出演した中上健次原作のNHKドラマ『日輪の翼』が受賞し、ディレクターとともに登壇した清川さんは、「生きててよかったー!」とマイクが割れるほどの大きな声と、両手を大きく広げる仕草で喜びを表した。その日に聞いたスピーチはどれも気がきいていて、笑ったり感心したり忙しかったが、清川さんのこの短いけれど勢いのある言葉が、他のスピーチを吹き飛ばしてしまった。年輪のなせるわざなのか、全身からただものでない雰囲気を漂わせていて、「この女優さんはすごい!」と圧倒された。「将来何になりたい?」と聞かれたら、「かわいいおばあちゃんになりたい」と答えるわたしだが、こんなにチャーミングな目標が目の前に現れたのだ。ちょうど「元気なおばあちゃんが主役」の企画を思いついたときだったので、「この人は、ぴったりじゃないか!」と膝を打った。懇親会でそばまで寄ってみたが、声をかける勇気はなかった。新聞記事によると、享年89歳。当時87歳だった。■あれから二年。忙しくしている間に、清川さんのことも、おばあちゃんの企画も、しばらく忘れてしまっていた。奇しくも今日、第28回放送文化基金賞の受賞作品が発表された。清川さんにご登場いただく夢はかなわないけれど、元気なおばあちゃんの話でまた賞を取ってみなさいと言われているのかな、と思ったりしている。
1979年05月24日(木) 4年2組日記 しゅうじで「ビル」