un capodoglio d'avorio
2004年03月01日(月) |
野島伸司「プライド」(第8話) |
うーん、ここまでずーっと観てきて思っている事なんだけど、どうにも、一貫してリズムが悪い。何だか最近のドラマのひとつの流行である、宮藤官九郎に代表される「軽快なテンポ」を目指してるのは分かる。でもそれが失敗していて、ちょっと「軽快」とはほど遠いものになってしまって、なおさらテンポを悪くしてる。ハルとチームメイトとの会話はいつもスピードはあるんだけど、言葉のひとつ一つがクドカンのそれと違ってざらついて質量がたっぷりあるから、どうしてもごつごつしてしまう。
野島サンの良さはそのざらつきと質量感にあるのだから、無理して流行を追いかけなくても良いのに。それこそ伝説の「TBS野島3部作(高校教師・人間失格・未成年)」が、伝説となったのは、じっくり腰を据えて、入魂の剛速球を投げ込んだからだ。先発完投型の本格右腕投手が、いきなりブレイクビーツでダンスステップを踏んでも、うまくいくわきゃない。
「プライド」がいまいち、リズムが悪いひとつの徴候として「説明ゼリフ」が多すぎることが挙げられる。そしてその「説明ゼリフ」の代表選手が、コーチの未亡人、容子サン(石田ゆかり)。どかはこのドラマの登場人物のなかで容子サンがいちばん、野島エッセンスを体現していると思っているのだけれど、その使い方がただの「狂言回し」になっちゃっている。要するに、野島サンのテーマはいつも、良い意味でも悪い意味でも抽象度の高い理想的な概念であり、野島ドラマフリークはともかく、ただ「月9」を気軽に観ている視聴者を想定するとどうしても、その概念とお茶の間を繋ぐハシゴが必要になる。このハシゴが「説明ゼリフ」なのだろう。
容子サンに限らず、全てのシーンにおいてこの傾向が認められる。どかは前にも書いたけど、野島ドラマの肝はスピードにあるはずなのだ。いろんな難解で理想主義的なテーマをふまえつつ、前半に用意周到に伏線を重ねていき、7話から9話にかけて一気呵成に物語を奈落に「落とす」。視聴者はスピードに巻き込まれつつも、それぞれが自らの中で「ハシゴ」を何とか繋いで、野島サンが設定したテーマへと肉迫していく、していかざるを得ない。視聴者はかなり感情を揺さぶられ理性を刺激されつつ、主体的かつ自発的にドラマの世界へと参加していく。このかなり大変な課程にこそ、野島ドラマの本質は浮かび上がる。いまの、軽く薄くさっぱりさわやかに、というドラマの潮流とは正反対の脚本家なのだ(いや、どかはクドカンは大好きなの、でも、亜流はだいっっきらい)。
そんなこんなで、第8話。どかが「オッ」と思った興味深い点が2つと、ガックシきた点が1つ。
ひとつは、亜樹がハルと別れることを決断した理由を、大和に語ったセリフ。曰く、ハルは魅力的で「眩暈がしそうなくらいドキドキする」けど、だからいつも不安だったと。自分は平凡な女で、ハルは特別、ハルに「つまんない」って思われる前に別れられて良かったと。そしてこのセリフは、別のシーンの容子サンから、「結局、里中クンは彼女に信用されてなかったのよ」と裏付けられることになる。…ってか、ごめんなさい。大変恥ずかしいのですが、この亜樹のセリフと全く同じセリフを言われたことのあるどかだったりする。ぐふ(まあ、それはいいや、それは、いいのよ…しぅん)。でも、この視点は、とっても大切だと思う。いまのどかなら、この容子サンのセリフも普通に受け止められる。
ふたつ目、亜樹の彼氏である夏川が、ハルを訪ねて亜樹との関係を問いただすシーン。テンションをあげて偽悪的に振る舞うのは、ハル自身がかなり不安定になっているあらわれ。なぜ、不安定になるのか。もちろん恋敵と対面するということもあるのだろうけれど、その恋敵のなかに、ハルが自分と似た資質を認めていたことがあるのだと思う。簡単に言うと、自分が夏川の立場だったら、待たせている亜樹にはやはり連絡しなかっただろうと。自分の世界を打ち立てることが全てのことに最優先し、その課程で要求される「強さ」は全てこれを満たし、その課程で直面する「寂しさ」は全てこれを認めない、そういう種類の「誇り高き」人間として夏川を認めていたからこそ、いつもの余裕たっぷりのハルでいられなかったのだ。ここは、面白かったな、なるほどと思ったどかだった。
さて、ガックシ来た点。これは簡単。あっけなく、夏川のメッキが剥がれて、小者になっちゃったこと。かなり、つまんない。なんだ。これじゃ亜樹がハルに戻って、メデタシの予定調和じゃないか。このドラマの存在理由は、ハルが最後にひとりぼっちになることなんだよ(勝手に決めるどか)。はー、どっちらけ。まだ、この先、何かひっくり返してくれるのかな。いつもの野島サンならそれを期待するのだけれど、「フジ月9の野島サン」はどかの知ってる脚本家じゃないから、とっても怖い。
こんなところです。かなり、キツいトーンの文章が続きますが、一応野島作品レビューに関しては、どかは必ず2回は観なおしてじっくり考えてから書くようにしてるので、許してください。それほどの敬意を払うべき脚本家なのだと思うのです。それは、確か。
…、木村サン、もっとがんばれ。
|