人ごみの中、一人ボーっと東京駅の新幹線改札口で悲しげな顔をした男が突っ立っていた。 その表情はどことなく諦めに似ていたが、それでも男は悲しみを表に出していた。 気になって声を掛けてみると、 「彼女がね、地元に帰っちゃったんです、僕は東京で暮らしていて彼女は 神戸で暮らしている。お互いの生活があるから仕方ないのだろうけど彼女も僕も仕事を優先させてしまっているんだ、どうしようもないね」 やはり悲しいお話だった。 私は 「迎えに行ってあげたらどうですか?」 と提案したが、彼は 「君は簡単に言うけれども、僕の生活はどうすればいいんだい?」 と言い訳めいた事を言っているから 「彼女は待ってるんじゃないんですか?」 と示唆したが、彼は 「彼女が来ればいいんだ」 と言い、こうなったら言うしかなく 「彼女の事好きじゃないんですね」 すると、彼は顔を上げた、驚いた顔をして。 「そうなのかもしれない」
一言だけ言ってその場を後にした。 彼が向かった先は特急券の売り場だった。 「彼に幸あれ」 私は呟いた。
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