好きな街だ、今でも変わらずに。 始まりがココだったからだろうか?ヤケに落ち着く街だ。 と、言って特別何がある訳でもない。どちらかと言えば怪しいとか、危ないとかそう言った言葉が似合う街だ。けど、その怪しいとか危ないが余計その頃の自分たちを現している様で、不安定な橋の上でお互い微妙な線で繋がっていたように今となっては思える。
深夜のレストラン、下らない会話。 コーヒーとココア。 タバコとライター。 終わりのない話はいつまでも続いた。 それが楽しくて、終電の時間を無視したのは君だっけ? 想い合っていると口にしてしまうと嘘臭くて、でも繋がっていたくて・・・。 誰かに自分の事を、考えを、聞いてもらったことはない。僕は秘密主義だし、聞かれないと話さない。自分から進んで話題を作ると言うことはしない。でも、君には自分から進んで話を聞いてもらっていたように思う。もちろん、君の話も聞いた。お互いのことをほんの少しだけど、少しづつ知ることが出来たのはあの深夜のレストランからだったように思う。何杯目かのコーヒーを注ぎに行って帰ってくると、とても物欲しげな瞳をして僕の左手をそっと握ったことを覚えている。その物欲しげな瞳に僕は微笑む事しかできない。その表情をみるといつも君はズルイ!というのだが、僕はあのときああするしか術がなかった。他の顔をしてしまうと全てを見抜かされてしまいそうだったから・・・。 時折吹く冷たい風にどうしようもなく、手を繋いだ。 そして、思わず唇を奪った。思わず。きっとそれは何秒かの出来事だったのだろうけど、僕にとってはスローモーションだった。この時が全てを包むと信じた。
夜明けにはいつも違う空が見えた。 別れが近づくことを知らせるベルは本当に嫌だった。 駅まで送る僕、下向き歩く君。 改札まで行ってその先が行けない君を見ては、いつも切ない気持ちで一杯だった。切符を買うことすら時間を掛けたがる。 −同じ気持ちだよ− 何でその時言ってあげられなかったんだろう?今ならはっきりと言えるのに・・・。後ろ姿をいつも見ていた。悲しそうに、トボトボと。
あの街に一緒に帰らないか? きっとあの街も君を待っているよ。 あのパスタ屋さんも、暇つぶしのゲームセンターも行ってみよう。 そして思い出話しでもしながら、あのときと同じように夜明けを待ってみないか? 何にもないけど、ただそこにはいつもの二人がいて、嬉しそうに手を繋ぎ歩けば全てが包んでくれるハズだから。
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