「あと何度一緒に見ることができるかな?」 夏の夜空に浮かぶ色とりどりの花達を眺めながら女は言った。 「君が来ようと思えば何度でも」 ビールを一口飲み、一息入れて男は言った。
場所取りに失敗してあまり良く見えない花火のコトを思ったのか、朝から早くから場所をとったにも関わらずお世辞にも良い場所とは言えない男への嫌味なのか女は
「こんな綺麗な花火見たの初めてだわ」 と言った。男は、それは明らかに自分への嫌味だと分かってはいたが、その挑発とも取れる言葉に動揺せずに、 「僕もだよ」 と笑みを浮かべ言った。
「ねえ、去年は誰かと見に来たの?」 と女は何気なく聞いた。男は、 「ああ、来たよ。誰かとね。」 と答えた。女はきっと違う女と来たのだろうと思ったが、それには触れなかった。何故なら女は去年、誰とも花火など見なかった。丁度、その時期に彼氏と別れたばかりでそんな気分になれなかった。女友達の誘いも、男友達の誘いもことごとく断っていた。淋しい夏だった。それなのに男が去年楽しい思いをして、自分と違う女と、この花火を見ていたと思うとたまらなく嫌だった。ましてや、男の口からそういった事実を聞かされると非常に居心地の悪いものとなるので触れるのは止めておいた。
と、思っていた所、男が 「丁度、去年の花火を見た後に、君と出会ったんだ。」 と言った。女は、 「えっ?」 と聞き返したが、男は機嫌良さそうにビールを飲みながら花火を見ている。
思えば去年、一人の男と知り合った。 休日出勤の帰り道、たまたま立ち入ったバーのカウンターで一人の男がえらく酔っていたのを女が面倒見たのだった。その夜は何もなかったが、後日連絡してきた事で二人の関係は現在まで続いているのだった。今、考えればおかしな話だ。あんなに友の誘いなどを拒絶していたのにあの夜は自分から介抱していたのだから・・・。
「あの夜に?」 女は聞いた。 「うん」と言う男の言葉と同時に花火の打ち上がった”ドン”という大きな音が重なって女には聞こえなかった。女は微笑んだ。 「今日のお帰りはお一人で?」 「そうなら、またあのバーで酔いつぶれるさ。」 「今度は誰がお目当て?」 「そうだな、君より優しい女性がいーかな。」 「いる訳ないでしょ!」 「だよね」
女は男が飲もうとしていたビールを横取りして、 「しょうがないから朝まで付き合ってやるか!」 と言った。 「どうせならずっと隣にいてくれよ!」 男は笑って言った。 「しょうがないから居てやるよ!」 女も笑った。
そして、 「今日の花火は本当に綺麗!」 女は言うと、男は、 「本当に綺麗だ」 と新しいビールを開けるのだった。
ヤケに暑い日だった。今年一番の暑さだったらしい。 何杯でもビールが飲めそうな夜だけど、今夜は酔えそうにないな、と男は心の中で呟いた。 女は来年もまた、来てやるかと、心の中で呟いた。
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