夕方から夜になる時が嫌い。
明るかった昼間から、だんだん空が赤みを帯びて。
夕方になってくるにしたがって、悲しくなる。
でも、夕方は嫌いじゃない。
子供の頃。
夕立が降ると、雷を怖がる私に。
祖母は「寝なさい。起きたら止んでいるから」と優しい声で言った。
私はいつもその通りにして。
目が覚めると、雷も雨もおさまっていたけど。
変わりに、暗い夜が来ている事があって。
それが、物凄く怖くて仕方なかった。
違う世界に来てしまったような。
凄く怖い世界に来てしまったような。
そんな感覚になるから。
あいつに、付き合ったばかりの頃。
・・・もしかしたら、付き合う前だったかもしれない。
「私、お昼寝していて、起きた時に夜だったりするのが嫌いなの」
と、メールした事があった。
「なんだか、怖くなって。子供みたいでしょ」
「そんな事ないですよ。なら、夜になる前に起こしますよ」
「じゃ、頼んだよ(笑)」
そんなやり取りを、いつまでもいつまでも、覚えているあいつ。
「起きてください、そろそろ暗くなって来ました」
そんなメールが来たりするようになった。
「何で寝ていたって分かったの?」
「3時くらいからぱったりメールの返事が来なくなったから(笑)」
「そぉか。ありがとね」
最近は、私もお昼寝できる身分じゃなくなり。
昼間は働いているか、用事があって出かけているか、資格の学校に行っているか。
だから、そんな事もホントなくて。
この間。
喘息が辛くて、用事をキャンセルして家にいたとき。
喘息が辛いから、用事をキャンセルしたと言う事だけは伝えてあったんだけど。
昼間メールのやり取り何か、今じゃあいつも働いているから出来ない。
なのに。
夕方、電話が来て。
「寝てたでしょ。もう5時だよ」
「寝てた・・・けど、今電話して平気なの?」
「今、運転中だったから。たぶん家にいるし寝ているんだろうなぁって思って。暗くなる前に起こさなきゃって思ったんだ」
「そか。何か凄く懐かしい」
「何が?」
「こうやって、メールや電話で、暗くなる前によく起こしてくれたなぁって」
「そうだねー」
私は何度も「懐かしい」を連発した。
あの頃は、よかった、というニュアンスを含んでいたのかもしれない。
すごく、真剣に、本気に、何もかも見えない位に、彼だけの事を考え。
今だって真剣だし本気だけど。
見えない位に、ではなくて。
ちゃんと、周りも見えていて。
余裕も、ちょっとはあると思う。
冷静に、色々な事を考えられて。
感情的になって、物事を決めるわけではなくて。
いい事なのに。
いい事なんだけど。
あの頃の方が、よかったと思えてしまうのは、何でだろう。
今だって、一番好きなのは、あいつだし。
あいつだって、そう思ってくれているって分かっているのに。
私は何が不満なんだろう。
何に対して、何と比べてあの時はよかったと思ってしまうんだろう。
咳が止まらないし、体もだるいから。
仕事の帰りに病院(救急外来の時間だったけど)へ行った。
風邪薬をもらって来て。
夕飯(と呼べる物じゃないかもしれないけど)を食べたあと。
薬を飲んで、お風呂に入ったら、急に眠気が襲ってきた。
髪も乾かさないで、そのまま寝てしまい。
あいつからの着信でさっき目が覚めた。
「寝てた?」
「んー・・・あぁ、髪の毛ぐちゃぐちゃだー・・・」
「風邪平気?」
「うん、明日もう一度、朝一で行く」
「そか、起こしちゃって悪かったね」
「いいよ、声聞きたかったし」
寝起きの私は素直だ、とあいつはよく言う。
だから、起こすのが苦じゃないんだと。
逆に素直な私の気持ちを聞けるチャンスなんだって。
少し話してから「じゃ、ゆっくり寝てね」って言われて電話を切った。
一度冴えてしまった目は、なかなか閉じなくて。
仕方ないから、起きてみた。
レースのカーテンしか閉めてなかったから。
夜の外がよく見える。
考えてみたら。
一人が嫌いだったくせに、今じゃ何だか平気だし。
昔より、暗いのが怖くない。
こう言うのも、慣れるもんなんだ。
もうすぐ、ここに来て一年になる。
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