元旦那は、愚痴を言う人じゃなかった。
あたしに仕事の愚痴を言っても分かってもらえないと思ったのか。
それとも、男が弱音を吐いてる姿を女に見られたくないと思ったのか。
または、愚痴なんかなかったのか・・・。
どれか分からないけど。
とにかく、言う人じゃなかった。
何度か聞いた事はあったけど。
ホントに数えるほどで。
あいつは、毎日のように言う。
仕事のことだけじゃなく。
自分の家族のことも、色々と。
「でさー。マジで嫌になっちゃうんだよねぇ」
なんて、すぐ言う。
あたしは。
愚痴、なのに。
素直に、楽しいって気分になって聞いている。
昨日。
「それで、昼間ちょっと自宅に帰ったら、姉ちゃんが寝てたのね」
「うん」
「里帰りって言ってもさ、甘え過ぎだって思うわけ。飯も作らなきゃ家事もしない、赤ちゃんの面倒はばあちゃんか母ちゃんが見てるんだよ?」
「産後はしばらく炊事とかだめとか言うしねぇ」
「俺もそれ聞いた事あるけど。でもそれは、昔の女の人は動きすぎだったから、産後位はゆっくりした方がいいって意味だったんじゃないの?姉ちゃんはゆっくりしすぎなんだよ!」
「まぁ、里帰りが終わったら、ちゃんと家事育児もしなきゃなんだから、いいじゃないの?」
「でもさー、こんなに楽していたら、帰ったら大変になるって俺言ったんだよ。昼間っから寝過ぎなんだよねー!そう言ったら、私はあんたの洗濯物干したんだからね!って言い返してきやがった」
「洗濯してくれているんだから、いいじゃん」
「でも、ホント干すだけなんだよ?たたむのは嫌い!とか言って、母ちゃんがやってるの。姉ちゃんの分もだよ?」
「そうなんだー。あたしはね、干すよりたたむほうが好き。だから、店のダスター(テーブルとか拭く布きんで、夜何十枚ものダスターを洗濯する)を一人でたたんでいるのとか、楽しいもん。たたんでいるときに、色々と考え事とかしちゃったりしてさ」
「そ、そっか・・・。考え事って?」
「あのね、明日は晴れるかなぁとか、今日は何食べようかなぁとか。どうでもいい事だらだらと」
「・・・楽しい?」
「すっごく!!!」
しばらく、あいつが黙った後。
「りりかって、不思議だわ・・・」
「何で?」
「何か、凄く腹立ってて、むかつきながら、姉ちゃんの話してたのに、俺今何だかほんわか楽しい気分になってる(笑)」
「えー?あたしの言ってる事ってばかっぽいのかなぁ?」
「俺にとっては癒し系なんじゃないの?」
「癒し系?」
「いつの間にか、和んじゃうもん。ありがとね」
何だか知らないけど、褒められた。
「男の愚痴とか、聞くの嫌じゃない?」
「嫌じゃない。楽しい。って言うか嬉しい、かな?あたしにそれだけ心を許してるって事かなぁ?って」
「許しているよ、確かにね」
「なんかね、嫌なこと、いい事、色々な話をしてくれるって嬉しい」
「やっぱ、不思議だよー。りりか、ありがとーって言いたい(笑)」
あなたがどんな人と今まで付き合ってきたのか知らないけど。
愚痴でも何でも、話を聞きたいって人はたくさんいるよ?
あたしが別に、特別不思議なわけじゃないでしょ?
それにね。
あなたが、愚痴を言って、あたしにも言える環境を作ってくれているから。
あたしは溜めずに、仕事の愚痴を言える。
だから。
ありがと、は、あたしも言いたいんだよ。
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