仕事を休んでくる、とあいつは言ったけど。
だいたい、今回の妊娠の話を、あいつのご両親は知らない。
なんで休んで東京に行くんだ?手術?何で?
と、なるに決まってる。
そしたら、イチから全部話さなきゃならない。
話したくなかった。
元気に育っているなら、話せただろうけど。
「妊娠していましたが、育っていませんでした」
なんて言えるはずない。
言いたくも、ない。
「平気。何とかなるよ。病院には友達について来てもらうから」
あいつはその後も、色々言ってたけど、何とかこれで納得してもらった。
でも、友達に頼めることでもなく。
一人で行こうと思っていたんだけど。
病院側から、それはだめだと言われて。
妹に頼もうかと思ってた時。
元旦那から、こっちで仕事があるからそのついでで、長女の修学旅行のお土産を持って来ると電話があった。
「あたし、いないよ」
「何で?仕事?」
「病院」
全部、話した。
「だから、ひな(妹)に頼もうと思ってるの」
結局、妹は仕事がどうしても抜けられず。
病院は明日だし、参ったなぁって思ってた時。
また元旦那から電話。
「ひなちゃん、ついて来てくれるの?」
「うーん。仕事みたいね」
「なら、俺が行くから」
「いいよ、いいよ」
「だめだよ。誰か付き添いがいなきゃいけないんだろ?俺が行くって」
今、あたしと元旦那の間って。
友達。
そんな感じ。
離婚してから、普通に会話したり、愚痴を言いあったり出来るようになった。
不思議だ。
あたしは、元だんなの彼女の愚痴も聞くし。
あたしは・・・あいつの愚痴はさすがに言わないけど、仕事の愚痴はこぼすようになった。
結婚しているときは。
仕事での愚痴とか疲れたとか、そう言うの禁句だったのに。
ホント、不思議だ。
結局、そんな感じで付き添いは元旦那に頼んだ。
あいつに話したら。
もちろん、いい気分じゃないと言われ。
でも、仕方ないから、今回は譲る、と言われ。
「俺も時間に融通聞く仕事だったらなぁ」
「心配しないで」
「心配するに決まってるじゃん!」
「うん、ありがと」
「お礼言うところじゃないし」
明日の夜、電話するね。
と、言って前日の電話は終わった。
当日の手術前。
待合室で。
「悪いね」
「いやいや、お互い様でしょ」
「何がお互い様なのよ?」
「わっかんないけど」
なんて会話をし。
「あたし、三人子供産んだけど、パパは、三人とも生まれるときに病院にいた例がなかったね」
「あー。そうだったかも」
「かも。じゃないじゃん・・・」
「なんか、あれだな。不思議だな」
「あんまり、こういうのいないよね。離婚したのに、一緒に産婦人科って」
「いないいない(笑)」
なんて会話もし。
こんな時にでも、普通に会話出来るあたしは。
もしかしたら、頭がおかしいのかもしれない。
そんな風に思いつつ。
手術室に入った。
目が覚めたら、白い天井が見えた。
窓から、すごくいい天気の空が見えた。
夕方、元だんなは、帰った。
無性に。
独りぼっちになるような気がした。
思わず。
「もうちょっと一緒にいて欲しい」
と、言いそうになってしまった。
あとで、ものすごい罪悪感に襲われ。
あんな風に思ってしまったのは。
吐き気が辛かったせいだと。
自分に言い聞かせた。
あの人の優しさに、これ以上甘えたら。
だめだよ。
もう、終わった人なんだから。
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