「明日、休みになったけど、墓参りに行ったりしなきゃなんだよ。だから、明日の夕方ちょっと行く、とかになっちゃうかも」
休憩中、電話が来た。
「そかー。ちょっとでも、いいよ、うん」
「ごめんねー」
「ううん、いいよ」
とか言ってて。
あたしは普通に仕事してたら。
あいつがご来店。
珍しく、あたしはフロア(接客の方)だったんだけど。
声が出なかったわ・・・。
ついさっき、電話してたのに。
明日夕方とか言われたのに・・・。
「何、驚かせるの、MYブーム?」
って聞いてみた。
あいつは、笑って。
「いいじゃんー。会いたかったんだもん」
とか言う。
あたしが上がる時間まで二時間近くあって。
あいつは、本を読んでた。
何か、仕事の、本。
店内は暇で。
お客様もまばらで。
「何か飲む?」
って聞いてみた。
「俺が運転するから、酒は飲めないしね。いいよ、お茶で」
とか言って。
ずっと本を読んでた。
勤務終了。
あいつの車に乗り込む。
「どこ行こうか?」
って、言われたけど、もう夜の11時半。
あいつはさっき店でご飯を食べてたし。
あたしもお腹は空いてないし。
「ドライブしようか」
って、言われて。
前、あいつが住んでいた部屋の前とか通る。
あたしは、一人でここを通るのが、嫌。
何か、思い出しちゃって、悲しくなっちゃうから。
今日も。
あいつとここを通った時。
何か、錯覚した。
今から、あの部屋に戻るあたしたち。
みたいに。
でも、違うから。
やっぱり、悲しくなる。
適当に走った後。
コンビニでお酒を買う。
で、前回あたしが嫌だって言って。
喧嘩の原因になったラブホに行く。
「一緒にお風呂に入ろう」
って言われて。
あたしも素直に「うん」って言った。
かなり、中が綺麗なホテルだった。
あいつは昔来た事があるとか話す。
二人でソファーに座って、お酒を飲む。
最近、毎晩のように飲んでいる事を話したら。
やっぱり怒られた。
「明日は禁酒ね!」
「はーい・・・」
一緒に真っ暗なお風呂に入った後。
バスタオル一枚巻いただけで、また飲んで。
あたしはかなり気持ちよくなって。
「会えて嬉しい」
を連発する。
あいつはやっぱり笑顔で。
「俺も嬉しいよ」
って言う。
あたしの髪を触ってるあいつの手が好き。
今日は仕事だったから、指輪はあいつからクリスマスに貰ったネックレスについてて。
あいつがそれを外して、あたしの指にはめる。
あたしは、はめてくれてるあいつの指を。
ずっと見てる。
よく分からないけど。
「好きだなー」
って思う。
ソファーでたくさん話をする。
あたしが一方的に、話してるんだけど。
話の途中なのに、キスをしてこようとする。
あたしが顔をそらして、話を続けてても。
今度はうなじとか耳にキスをする。
「ねー。話せないじゃんー」
「いいよ、続けて・・・」
「だって聞いてるの?」
「うん、聞いてる・・・」
あたしは、黙った。
あたしの背中にゆっくりキスを何度もする。
そして耳を攻められる。
酔っていて、気持ちがいいから。
普段以上に、変な感覚になる。
体が勝手に、びくって反応する。
「やめて・・・」
「ううん、やめない」
こう言うとき、あいつと目が合うのがいや。
いつもと違った雰囲気のあいつの目を見ると。
それだけで、変な感覚になる。
なんていうか。
変な感覚。
ベットに連れていかれて。
電気がちょっとついてて。
あたしは「消したい」って何度も言ったんだけど。
「ううん、消したくない」
って言われる。
酔っていたからかなぁ。
あたしも、それでもいいかーって思ってしまう。
「りりかは、胸がどうのって言うけど、全然関係ないよ。やっぱり綺麗だもん」
そんなはずはなく。
妊娠線はあるし。
絶対に綺麗なんかじゃないんだけど。
あいつは、お構い無しに、胸から下に。
妊娠線の所にキスをする。
やっぱり、あたしは変な感覚になる。
どんどん変な感覚になって。
浮いているみたいな。
何かに思い切り掴まってないと、おかしくなってしまうみたいな。
だから、いつもあいつの手を。
凄い力で握っていると思う。
怖いくらいに、自分じゃなくなって行く感覚。
こういう感覚になるのって、あいつと付き合って、初めて知った。
あいつが何度も言う。
「りりか、大丈夫だよ。大丈夫だから・・・」
声が出ない。
息を止めてると、楽。
あいつが、あたしの名前を何度も呼ぶ。
あたしは答えられなくて。
言葉で答える代わりに、あいつの首にしがみつく。
あいつも、あたしを思い切り抱きしめる。
どこまでも、続きそうな、深い霧みたいな光景が、目の前に広がる。
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