マフラー間に合わないかも!
あたしが昨日、そう言ったら。
「がんばれー。短くても、りりかが忙しい合間に頑張って作ってくれたんだって、思うと嬉しいよ」
って言ってくれてたけど。
頑張って最後までやり遂げたくて。
必死。
あいつは家に仕事から帰ってくるのが6時半くらいだから、着替えていろいろして、7時半には出て、こっちにつくのは九時半くらいかな、とか言ってた。
もう、あたしは暇さえあれば、マフラーを編んでた。
ああ・・・難しい縄編みとかにしなければよかった・・・。
夕方五時過ぎ。
ようやく完成!
最後は角四箇所に小さいボタンを付けてみた。
飾りとして。
自分でもなかなかの出来栄え!
と思ってたら、あいつからメール。
ナイスタイミングだよーなんて心の中で言いながら、メールを見る。
「今から家に向かいます。今日は現場が遠かったので、つくのは二時間後くらい。で、朝からだるくて、関節痛くて、頭が痛い。熱がある・・・」
・・・。
は?
朝は普通に「おはようー。いい天気だね。行って来ます」ってメール来てたよ?
昼休みはいつもみたいにメールがなかったけど・・・具合悪かったから???
「えぇー?大丈夫なの?平気なの???無理しないで、だめなら来れなくていいから!」
「いや・・・行くよ。会いたいし」
「だめだよ、運転危ないよ!」
「なら、高速だけ乗っていくから、降りる○○インターまで来て。そこで会おうよ」
「だめだって!・・・あたしが行く!」
「だめ。高速危ない」
「平気!」
「だめだよ!とにかく、まだ家に着いてないから、ちょっと待ってて!」
待てるはずないもん。
あたしはどんどん用意して、強行突破。
さー、高速乗るぞー。
ナビにもあいつの家の住所で設定したし!
意気込み充分!
・・・てか、あたしは高速の運転は免許取得から八年目にして、まだ三回。
その三回とも全部、誰かが隣にいて「はい、合流OK」とか言ってくれてた・・・
しかも、三回中一回は教習所のときだし・・・。
「今家を出ました」
「○○インターで待ち合わせでしょ?まだでないでいいよ」
「ううん、Hのとこまで行くの」
「は?危ないからだめって言ったでしょ!」
「平気。もう出ちゃったもん!」
「・・・なら○○インターで待ってて。家ついたらすぐ向かうから」
「やあだ。向かうころあたしは高速です」
「・・・。絶対に安全運転ね!!!!!」
「任せて♪」
なんて言ったけど・・・。
実は心臓は破裂しそうなほど、ドッキドキ。
指先はどんどん冷たくなってくるし・・・。
高速乗る前にとにかく落ち着こうと思って、お茶とフリスクを買った。
家を出たのは七時。
高速を飛ばしたせいか(怖くて早く降りたい一心で飛ばしました・・・)下道が混んでいたにもかかわらず、九時ちょっと過ぎに到着。
「降りたよ。今ね、○○って交差点」
「あー、もう後五分くらいで俺んちだ。早かったね」
「うん、140キロくらいで来たの」
「・・・会ったら説教だから」
こういうとこに住んでるんだー。
こういうとこで小さいころから過ごしたんだね・・・。
真っ暗で、星だけが綺麗に見えて。
本当に、田舎って言う感じで。
バックミラー見ても、真っ暗で何も見えないの・・・。
車のライトを消したら、暗闇。
そんなとこ。
あたしが住んでいるとこでは、考えられないくらいの静けさで。
あいつが前から歩いてくるのが見えた。
10日ぶりの、あいつ。
当たり前だけど、変わってない。
「親父が、家に連れてこいよ、って言ってた」
「いつかね」
なんか、たった十日なのに。
恥ずかしいって言うか、なんか、そわそわしちゃう。
「疲れた?」
「うん、すごく。高速一人で乗ったの初めてなの。熱は平気?」
「帰って計ったら37.8度」
「なら、会わないで寝ていたほうがよかったんじゃないの?」
「やだ。そしたらふてくされてた」
「頑張って、来た甲斐があったかな」
あたしがちょっと笑ってたら。
「ありがとね・・・。ホントに」
頭をなでてきた。
「嬉しいよ、マジで」
明日はあいつはお姉さんの結婚式。
全く寝ないで出すわけにも行かない。
熱もあるんだし。
あたしも疲れてて、早く運転をやめたかった。
コンビニでお茶を買う。
それで、あいつが運転を変わってくれた。
少しだけだからね。
そのまんま、あいつの運転でホテルに行った。
てか、何であんなにいっぱいホテルがあるの?って聞いたら、「田舎だからやることなくて、みんなホテルに行くからだよ」とか言ってたけど・・・違うでしょ。
ホテルについて、改めておでこを触ったら、かなり熱い。
「平気ー?」
「平気平気。風呂に入ってないから、入りたい」
「えー?熱あるときはだめだよ!」
「いや、昨日もだるくて入ってなかったんだよ・・・。りりかも来てくれたしね」
「いいって、あたしは気にしないから!(何もしないんだし)」
「やだ、入りたいの」
あいつは、お風呂を溜めてた。
その間に、あたしはチョコとマフラーを渡す。
「チョコなんか食べられないよね?」
「うーん・・・一個だけは食べるよ」
あたしが作ったのは、生チョコ。
一個が1.5センチ四方くらいの四角のを9個入れてみた。
「おいしい。うん、甘すぎないし、おいしいよ」
「マフラーは?」
「そうだ、マフラー!」
もうね、大はしゃぎ。
「すげー、マジで作ったの?売ってるのと変わらないじゃん!!手編みなんてしょぼい物かと思ってたよ!!!すっげー・・・」
「頑張ってみました」
実は、飾りで付けたボタンの裏には、メッセージ入り。
四個とも違う文面。
言うのやめようと思ってたんだけど、つい言っちゃった。
「ねぇ、ボタンにね、メッセージが書いてあるの」
「え?何も書いてないけど?」
「裏だよ!」
「このボタンはどこに留めるの?」
「飾り!!!!」
「あ、そか」
メッセージは。(「」はあいつの感想です。)
『HAVE A GOOD TIME』
「これなんて意味?」
『頑張ってね』
「何を?」
『いつまでも一緒にいようね』
「当たり前じゃん」
『I LOVE YOU』
「知ってる♪」
嬉しそうに、部屋の中なのに、ずっと巻いてた。
あたしが「汚れちゃうよ?」って言ったら、ようやくはずした。
「明日の姉ちゃんの結婚式にも付けて行くんだ。で、姉ちゃんには出来ないだろー?って自慢するんだー」
ホント、大喜びしてくれて、よかった。
お風呂は、あたしは家で入ってきたから、入らないって言った。
でも、せっかく一緒に入れるんだから・・・って強い押しに負けて、あたしはバスタオルを巻いて入る事に。
お風呂の中で、キスした。
すっごく久しぶり。
10日だけなんだけど。
もう12時近くなっていたし、寝よっか。って話になって。
一緒にベットに入った。
あいつのおでこを触ったら、やっぱり熱いし。
あたしはタオルを冷やしてきて、おでこに乗せた。
「気持ちいいー」っていいながら、寝ちゃった。
でも、タオルがずれてきて、肩に当たってたりするから、逆効果だな、と思ってはずして。
あたしの手をタオルで冷やして、おでこに乗せてた。
あいつの手を、握ってみた。
大きい手。
男なのに、綺麗な手だった。
でも、今は外で働くからかな。
荒れてて、爪とかも汚かったりする。
でも、大好き。
この手が、大好き。
ずっと手を握って、ずっと手を見てた。
寝るのが、惜しいから。
あたしがぎゅって握ると、寝てるくせに握り返してくる。
あたしがおでこを冷やす用に、自分の手を冷やそうと思って起き上がると、寝てるくせに慌てて抱きしめてこようとする。
いなくならないよ・・・。
平気だよ。
君が目覚めるまで、あたしはここにいるよ。
そんな風に思いながら、手を握ってみた。
やっぱり、握り返してくる。
無意識なんだね。
この大きな手で、あたしはどんなに癒されたか。
たくさんの事を教わったんだよね。
たくさんの物を貰ったんだよね。
それは、形が見えないものだったり、見えるものだったりする。
あたしの手は、小さい。
あたしの小さな手で、あなたに何かを教えてあげられた?
あなたに何かを与えたのかな?
愛してる。
心からそう思った。
ずっと、あなただけだよ。
本当に、そう思う。
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