あいつの部屋の掃除をしに行った。
何もなくなった部屋。
ゴミが、ぽつぽつ落ちてただけ。
寂しさは・・・出てこなかった。
何だか。
知らない人の部屋に、来ちゃった感覚。
知らない人の部屋を掃除にしに来た、感覚。
ここで、あたしが、あたし自身が。
一年間いろいろな事をしてきたとか。
一年間いろいろな事を考えてきたとか。
そんな事は、まるきりなかったみたいに。
本当に、知らない部屋。
「ここは、あたしがあんなに通って、泣いて、笑った、あの部屋?」
思い出せない。
ここで、どんな風に泣いたのか。
どんな風に、あたしは、笑ったのか。
何もなくなった部屋で。
あたしは、抱きしめられたけど。
知らない部屋で。
知らない人に。
抱きしめられている。
そんな感覚で。
あたしの感情が、麻痺しちゃっている。
一年間、いろいろな事があった部屋で。
今までも、これからもずっとずっと好きな人に。
抱きしめられている。
・・・明日から離れるのだけど。
そう思えない。
思わないように、勝手にしているのかもしれない。
「泣け泣けって言うから。何だか、泣けなくなっちゃった。寂しい気持ちも、なくなっちゃった」
あたしは、そう言った。
「泣けって言うのは、悪乗りだったんだよ・・・。ただ、俺がこっちにいる間は、泣いても慰めたり、抱きしめたり出来るから、泣いていいよって意味だったんだよ」
って、「ごめんなさい」って言葉と一緒に言ってきた。
新年会でも。
後数時間で、離れ離れになるって分かっているからか。
分かってないのか。
なんなのか。
いつも以上に飲んでいるのに。
全然記憶は飛ばないし。
どうでもいいやーって、酔えないし。
あたしは。
泣かなかったよ。
泣く感情は、どっかに置いて来ちゃったみたいに。
あたし、泣かないで、最後まで「仕事、頑張ってね」って言えたんだ。
これは、冷めたとかじゃなく。
やっぱり、あたしは現実として受け止めたくない。
そう思ってしまうから。
だから。
泣かないで、いられた。
だって。
また、明日。
あの部屋に行ったら、やっぱりいつも通りで。
こたつがあって、ベットがあって、座椅子があって。
「寒いから、早くこたつ付けてよー!」
って、あたしが言いながら座って。
「まず、コート脱ごうよ」
って、あたしのコートを脱がせてくれて。
いつも通りの。
いつもの部屋がある気がしてならない。
あいつも、いつも通り、あたしと一緒にいて、笑ってて。
あたしも、いつも通り笑ってて。
「現実逃避。」
今みたいな、あたしの状態の事、言うんだね。
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