16時。
あいつと待ち合わせしてて。
あいつの家に行った。
あいつは、ちょっといつもと違った。
今、思えば。
「カラオケ、やっぱり難しいよ」
「うん、だから、歌わないでいいってば」
「いや、歌うよ。歌えって言ったの、りりかじゃん」
「でも、もういいよ、って昨日言ったじゃん」
「遅い。歌う」
「いいよ!嫌なのに、無理矢理歌ってもらっても嬉しくないし!今は歌って欲しいって余り思ってないし!」
「・・・。いいよいいよ、ってさっきから言うけど・・・。一度も謝らないんだね」
「昨日、メールで謝ったよ!」
「まぁ、昨日はね」
ため息つかれて。
あたしも素直に謝れなくて。
無言のまま。
時間が過ぎて。
先に、口を開いたのは、向こう。
「ねぇ。俺にだってコンプレックスがあるんだよ?」
「え?」
「俺は、歌が嫌いで。音楽の授業とかも嫌いで。それでも歌え歌えってりりかが言うから頑張って。その上、もう歌わないでいいよー?歌ってほしくないよー?何それ?」
「だって、嫌なのに歌うんでしょー?約束だからって理由だけで」
「りりかは、頑張ってね。とか言わないしね。あれして。って言ったすぐ後、やっぱいいや。とか。簡単にいうよね、人の気持ち考えないで」
「・・・。そう?」
「うん。だから、もう疲れました。うん」
「・・・。疲れた?」
「冷めました」
「・・・」
「俺にも限界があったりするからさ」
「・・・」
「俺さ、昨日もりりかと何度かメールしたけど、いつもみたいに楽しく無かったし。今日も、りりかとこうして一緒にいても、抱きしめたいって思えなくなっちゃったんだよね」
あたしは、口聞けなくなった。
なんて言ったらいいのか、分からなくて。
瞬きばっかりしてた。
「りりか。お別れで」
あの瞬間。
真っ暗になった気がする。
目の前が。
喉が、からからに渇いて。
あいつが飲もうと用意してたコップの中の日本酒を、一気に飲んだ。
水だと思ってて・・・。
甘えすぎてた。
あいつの優しさに。
調子に乗ってた。
不安なの、あたしだけだって思って。
わがままばっかり言って。
でも、あたしを愛しているからこそ、わがままも聞いてくれるんだね、なんて浮かれてた。
目が。
覚めた。
あいつにだって。
我慢の限界は、当たり前のようにある事。
やっと、分かった。
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